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NVNニュース 第11号

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NVNニュース 第11号(平成21年7月16日発行)
日蓮宗ビハーラ・ネットワーク
Nichiren-syu Vihara Network
NVN事務局 栃木県栃木市嘉右衛門町11-21 妙唱寺 〒328-0072  Tel 0282-22-3720 Fax 0282-23-6733

 平成21年度総会

 
齋藤憲一伝道部長
齋藤伝道部長
 平成21年6月4日(木)午後1時より、日蓮宗宗務院4階第4研修室に於いて日蓮宗ビハーラ・ネットワーク(NVN)平成21年度総会が開催され、NVN会員32名が出席されました。
 玄題三唱の後、齋藤憲一伝道部長から、「ビハーラ活動は、但行礼拝活動の、対社会に向けた活動ということで重要な活動であります。皆様のますますのご活躍を御祈念申し上げます。」と御挨拶を頂きました。
柴田代表
柴田寛彦師
 続いて、NVN代表柴田寛彦師より、「我々が唱題することは最大の瞑想であり、人格が磨かれていくのであります。菩薩行は日蓮宗の専売特許であるはずで、自分を清める禅とは違う、来世に浄土を願うのでもない、この世を浄土にというのが日蓮宗の大きなテーマのはずです。我々の活動の母体であるNVNは、唱題行による瞑想を基板としながら、手を差しのべる菩薩行であろうと思います。」と挨拶されました。
古河良晧世話人
古河良晧師
 続いて、事務局一任にて選ばれました古河良晧議長によって議事が進行され、平成20年度活動報告、平成20年度決算報告、平成20年度監査報告、平成21年度活動計画案、平成21年度予算案の審議が行われ承認されました。また、任期満了による会計監査の改選が行われ、事務局から推薦されました荒居妙蓉上人と吉田尚英上人が就任されました。

 総会後、NVN会員の村瀬正光上人をお迎えして、NVN平成21年度総会記念講演が行われました。

平成21年度NVN総会記念講演

「自殺・死別の悲嘆への精神的ケアについて
−知っておきたい精神疾患の基礎知識−」

長岡西病院 ビハーラ科(緩和ケア科) 医長  
(愛知県名古屋 大光寺 修徒)  村瀬正光 師
村瀬正光師
村瀬正光師
1、「自殺」と「自死」、用語の違いについて
 最近、関係者の間では「自殺」に代えて「自死」という言葉が使われるようになった。2つの用語にはどのような違いがあるのであろうか。 『現代のエスプリ 封印された死と自死遺族の社会支援』(至文社)を参考に考えてみたい。

医学書や法律など公式用語は「自殺」
 @自殺企図、自殺念慮
 A自殺対策基本法(平成18年)
 B自殺総合対策大綱(平成19年)
 など

 浅野弘毅氏(東北福祉大学)「自殺は追い詰められた末の死と考えられているのですが、自死という言葉を使うときは、みずから選んだ死というか、あるいは覚悟の上での死というか、そういうニュアンスがあります。」

「自殺」から「自死」への言葉の言い換えによる可能性
 @ 「自死」をめぐる社会的イメージが変わる可能性がある。
 A 「自死」の言葉によってこそ、遺族はよりよい喪の作業ができる。病的悲嘆に陥るリスクが低減し、病的悲嘆からの回復もよくなる可能性がある。

「自殺」から「自死」への言葉の言い換えに対する批判
 @ 「自殺」という現実を直視すべきであり、安直な言葉の置き換えではないか。
 A 「自殺」という言葉が内包している「自殺」に対する抑止力を低下させるのではないか。

2、自殺の現状について
 様々なデータから「自殺」の現状を考えてみる。

自殺の現状(自殺白書)
 平成19年における自死者数 33,093人
  原因
    
@健康問題:63.3%
A経済・生活問題:  31.5%
B家庭問題:16.2%
C勤務問題:9.5%
D男女問題:4.2%
E学校問題:1.5%

自殺の現状(人口動態統計)
    
10〜14歳:     47人
15〜19歳:455人
55〜59歳:3,816人
90〜94歳:348人
95〜99歳:73人
100歳〜: 7人

各国の自殺死亡率
    
1位、リトアニア:  38.6%
2位、ベラルーシ: 35.1%
8位、日本:23.7%
11位、韓国:21.9%
25位、中国:13.9%
41位、アメリカ:11.0%
45位、インド:10.5%

自殺に関する意識調査
 平成20年、内閣府自殺対策推進室
 全国20歳以上の者3,000人
 (有効回答1,808人、回収率60.3%)
    
今まで本気に自殺を考えたことがある:  19%
自殺を考えたとき相談したことない:   60%
周りに自殺をした人がいる:57%

身体疾患と自殺の危険
    
人工透析14.5倍
頭頸部のがん11.4倍
その他のがん1.8倍
後天性免疫不全症候群  6.6倍
脊髄損傷3.8倍
消化性潰瘍2.1倍
腎不全、血液透析40倍
後天性免疫不全症候群21〜36倍
側頭葉てんかん25倍
脊椎損傷5〜10倍
胃腸管悪性腫瘍5倍
消化性潰瘍5倍

自殺の危険因子
 @自殺未遂歴
  自殺未遂は最も重要な危険因子
 A精神疾患の既往
  気分障害、統合失調症、人格障害、アルコール依存症、薬物乱用
 Bサポート不足
  未婚、離婚、死別、孤立
 C性別
  自殺既遂:男>女、自殺未遂:女>男
 D年齢
  年齢が高くなるにつれて自殺率も上昇
 E喪失体験
  経済的損失、病気や怪我
 F他者の死の影響
  精神的なつながりのあった人の死
 G事故傾性
  事故を防ぐのに必要な措置を取らない
  慢性疾患に対する予防や医学的助言の無視

3、自殺をきたす疾患
 「自殺」をきたすのは「うつ病」だけではない

自殺と精神疾患(15,629例)
    
気分(感情)障害30.2%
物質関連障害17.6%
統合失調症14.1%
パーソナリティー障害13.0%
器質性精神障害6.3%
不安障害、身体表現性障害  4.8%
適応障害2.3%

精神疾患と自殺率
    
大うつ病15%
双極性障害10〜15%
統合失調症10%
アルコール依存2%
境界性人格障害4〜9.5%
反社会性人格障害   5%

A、気分(感情)障害とは
 気分(感情)障害の病因、症状、基盤にある生科学的過程、治療への反応、および転帰との間の関連はまだ十分わかってはいないので、この疾患を誰もが十分納得するような形で分類できない。この障害における基本障害は気分あるいは感情の変化であり、ふつう抑うつへ変化したり、あるいは躁/高揚気分へ変化したりする。

気分(感情)障害の分類 DSM−W−TR
 うつ病性障害
  @大うつ病性障害
  A気分変調性障害
 双極性障害
  @双極T型障害
  A双極U型障害
  B気分循環性障害

気分(感情)障害の分類 ICD−10
 躁病エピソード
  双極性感情障害(躁うつ病)
 うつ病エピソード
  反復性うつ病性障害
  持続気分(感情)障害
  その他の気分(感情)障害
  特定不能の気分(感情)障害

DSM−W−TRとICD−10
 DSM−W−TR
  「米国精神医学会による精神疾患の
  診断統計マニュアル」第4版の改訂版
 ICD−10
  WHOの「疾病と関連保健問題の
  国際統計分類」第10版

抑うつ症状を示すことが多い精神疾患
 抑うつ気分を伴う適応障害
 アルコール使用障害
 不安障害・摂食障害・気分障害
 統合失調症・統合失調症様障害
 身体表現性障害

大うつ病の症状
 抑うつ気分
 喜びまたは興味の喪失
 著しい体重(食欲)減少あるいは増加
 不眠または過眠
 焦燥または遅延
 疲労感、エネルギー喪失
 無価値感または罪悪感
 集中力の減衰
 反復される病的思考または自殺念慮

うつ病の臨床
 @ありふれた疾患
 Aしばしば見逃される
 B注意すれば診断は難しくない
 Cしばしば重症
 D反復することが多い
 E費用はかかる
 F治癒率は高い

  うつ病性障害の半数にものぼる患者が、患者自身もしくは医師にうつ病と認識されず、認識されたとしても未治療のまま。
  無視される理由として、精神障害が汚名として嫌われること、うつ病のもたらす深刻な症状と治療可能であることの無理解、患者や医師の注意が身体的訴えに偏りがちなことなどがあげられる。

大うつ病の疫学
 罹患率:
  男性 2.3〜3.2%
  女性 4.5〜9.3%
 生涯危険率
  男性   7〜12%
  女性  20〜25%

うつと自殺
  入院中の抑うつ患者の約15%が実際に自殺を遂行する。この10倍が自殺行為を行う。
  うつ病性障害が自殺の約80%と関連している。

双極性障害とは
  双極性障害とは、気分、認知、行動における周期性障害によって特徴づけられる異種の障害群である。診断にはすくなくとも1週間の躁または4日の軽躁状態を必要とする。

躁症状
  気分が高揚し、開放的または易怒的な、いつもとは異なった期間が少なくとも1週間。
 @ 自尊心の肥大または誇示
 A 睡眠欲求の減少
 B しゃべり続けようとする心迫
 C 注意散漫
 D 活動の増加
 E 観念奔逸(速く、連続した言語化あるいは言葉遊びで、ある観念から他の観念へと絶えず移ってゆく。それらの観念にはつながりがあり、それほどひどくない場合はそれを聞いている者はどうにかそれについていくことができる)または思考の競合(いくつもの考えが競いあっているという主観的な体験)
 F まずい結果になる可能性の高い快楽行為

双極性障害の疫学
 罹患率: 0.5〜1.0%
 片親が感情障害の場合: 発症率 25〜30%
 両親が感情障害の場合: 発症率 50〜75%
 発症平均年齢:   約18歳
 治療開始平均年齢: 約22歳
 自殺は未治療者に多く、患者の25〜50%が少なくとも一度は自殺を試みている。

B、統合失調症とは
  一般的には、思考と知覚の根本的で独特な歪み、および状況にそぐわない鈍麻した感情によって特徴づけられる。ある程度の認知障害が経過中に進行することはあるが、意識の清明さと知的能力は通常保たれる。

統合失調症の症状
陽性症状
 @ 妄想:ほとんどの人がそういうことがありえないと考えるのに継続する。同一文化もしくは小文化圏にある他の人と共有できない誤った信念。
 A 幻覚:そのような刺激が存在しないのに現実となって現れる感覚。
 B 解体した会話
 C ひどく解体した、または緊張病性の行動:緊張病は筋肉組織の固縮もしくは蝋屈病(1つの姿勢をとらされると、それが維持される症状)を伴う昏迷状態を特徴とする症候群で、興奮の時期と交代することがある。

陰性症状
 @感情の平坦化または感情の反応性の低下
 A理論性の欠如または会話の貧困
 B意欲の欠如または目的のある行動の欠如
  一般に職務行為、社会的関係、自己管理能力は以前最も高かったときと比べ低下する。

  前駆期もしくは残遺期には、社会的孤立または引きこもり、奇異な行動、軌道からはずれ末節にこだわった会話、関係念慮(他人の言葉や行為、表現が、実際そうではないのに自分に関連あることのように考えること)や魔術的思考のような奇異な信念、異常な知覚体験、創意や興味、エネルギーの低下がみられるときがある。

統合失調症の疫学
 生涯罹患率は約1%
 原因は非常に多くの要因が関連
 発症は通常青年期か成年初期
 平均余命は自殺その他の原因で短い
 統合失調症の約40%に生涯のある時点で
 自殺企図がみられ、10〜20%が遂行する
 ホームレスの1/3〜2/3は統合失調症であろう

C、パーソナリティー障害
  境界性人格障害
  反社会性人格障害

境界性人格障害の症状
  対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期に始まり、種々の状況で明らかになる。

 @ 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする気違いじみた努力
 A 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式
 B 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像または自己感
 C 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの
 D 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し
 E 顕著な気分反応性による感情不安定性
 F 慢性的な空虚感
 G 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難
 H 一過性のストレス関連性の妄想様観念または解離性症状

境界性人格障害の疫学
 有病率は約1〜2%
  女性は男性の2倍
  境界性人格障害の第一度親族は
  大うつ病性障害、アルコール性使用障害、
  物質乱用障害の有病率が高い。

境界性人格障害の原因
 精神力動学的には母性の欠乏の結果
 (十分によい母親は、子どもの欲求に適切に反応し、依存と独立の間の適切なバランスを育成する。)
 身体的虐待、性的虐待と境界性人格障害の間には驚くべき関連性がある。

境界性人格障害と自殺
 衝動性、不安、怒り、そして感情障害と物質乱用障害の症状が混合すると、自殺の危険性が高くなる。
 患者の70〜75%が少なくとも一度は自傷行為をしたことがある。自殺既遂率は9%。

反社会性人格障害の症状
 @ 法にかなう行動という点で社会的規範に適合しないこと、これは逮捕の原因になる行為を繰り返し行うことで示される。
 A 人をだます傾向、これは自分の利益や快楽のために嘘をつくこと。偽名を使うこと。または人をだますことを繰り返すことによって示される。
 B 衝動性または将来の計画を立てられない。
 C 易怒性および攻撃性、これは身体的なけんかや暴力を繰り返すことによってしめされる。
 D 自分または他人の安全を考えない向こう見ずさ。
 E 一貫して無責任であること。これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということによって示される。
 F 良心の呵責の欠如、これは他人を傷つけたり、いじめたり、または他人のものを盗んだりしたことに無関心であったり、それを正当化したりすることによって示される。

反社会性人格障害の疫学
 有病率は男性3%、女性1%
 この障害は貧しい都市地域やその地域の移民に最も多い
 刑務所での反社会的人格障害の有病率は75%程度であろう。

反社会性人格障害の原因
  多数の要因、例えばその人の素因、特殊な育成時の学習歴、環境的ストレス要因などの相互作用の結果起こるのではないかと考えられている。注意欠陥/多動性障害との合併が多い。注意欠陥/多動性障害のある子どもの1/3が、成人になってから犯罪行為を行う。

反社会性人格障害の経過
  経済的、政治的成功をおさめることは不可能。反社会性人格障害の特徴である早期発症、それに関連した教育の落ちこぼれ、衝動性、そして攻撃性は成功をはばむのが普通である。何年も刑罰的な収容施設で過ごすことになる。自殺や他殺あるいは薬物またはアルコール乱用を併発した結果、若くして死亡することが多い。

4、自殺への対応
人はなぜ自殺するのか
  自殺には多くの決定要因がある。しかし常に、たとえ不適応的方法とはいえ、自殺は問題を解決しようとする1つの試みである。死ぬことで、復讐や力、物事のコントロール、罰、償い、犠牲、復権、逃避、眠り、救済、復活、再会、あるいは新しい生命を願っていることが明らかになることがある。

自殺の動機
  「自殺とは、病苦、失意、屈辱、願望の挫折、失恋などからくる極めて簡単、かつ合理的な説明が提供され、このような説明が、なんの疑いもなく容認されている事実がある。自殺に関する簡単な解説は、なんの説明にもなっていないことは、少し反省してみればだれにでもすぐにわかることである。」

自殺への対応
自殺したいと打ち明けられたときの対応原則
 1、真剣に話を聞く
  誰でもよいから打ち明けたのではない
 2、言葉の真意を聞く
  生と死の間を揺れ動いている
 3、できるかぎり傾聴する
  気の利いた助言をする必要はない
 4、沈黙を共有してもよい
 5、してはいけないこと
  @話題をそらさない
  A表面的な励ましをしない
  B批判をしない
  C社会的な価値観、倫理観を押し付けない
 6、悩みを理解しようとする態度を伝える
 7、十分に傾聴したうえで自殺以外の選択肢を示す
 8、キーパーソン(家族、上司、友人)と連携する
 9、専門家への相談、受診を促す
 10、「自殺しない」約束をする

自殺予防への対応
TALKの原則
 Tell:あなたのことを心配しているとはっきり言葉に出して伝える
 Ask:自殺のことをうすうすかんじているならば、はっきりその点について尋ねる。真剣に対応するならば、自殺予防の第一歩
 Listen:傾聴、絶望的な気持ちを真剣に聞く
 Keep safe:危ないと思ったら、その人を決して一人にしないで、安全を確保する。確実に精神科受診につなげる 

自殺について尋ねることは、その考えを頭に吹き込むことになるか?
  そうではない。この間違った認識を支持する証拠は全くない。自死者は普通、助けようとしてくれる者に出会うと安心するものである。 

自殺の気持ちをどのように聞けばよいか
 気持ちに対する誠実な関心を伝えることは、自殺の可能性を知るために使われる適切な言葉づかいよりはるかに大切である。

 @いままでに死んでしまいたいと願ったことはありますか
 A自分を傷つけたい、殺したいと考えたことはありますか
 Bそういう気持ちを実行に移したことはありますか
 C最近死にたいと思っていますか
 Dどうやって死のうとおもっているのですか
 Eその計画を実行する手段は
 Fいつ頃実行しようとしているのですか
 G誰かを殺したいと思ったことはありますか
 など

5、ちょっと一休み
長岡西ビハーラ病棟の紹介  緩和ケア病棟
 1.ビハーラ病棟も緩和ケア病棟の1つ
 2.1990年4月に正式に制度化
 3.現在193施設、3770床(2009年2月)
 4.終末期の癌とエイズの患者のみ利用できる
 5.癌死亡患者の3%が利用
 6.全死亡者の30%が癌

長岡西ビハーラ病棟 全国で9番目の緩和ケア病棟
 開設:1992年5月1日、 認可:1993年4月1日
 病床数:現在27床
 設備:仏堂、家族室、談話室、浴室、キッチン、テラス、喫煙室など

6、死別の悲嘆、病的悲嘆
  用語の説明を中心に。

悲嘆とは
  悲嘆とは親しい友人あるいは親族に迫りくるあるいは既に起こった死のように、呼び戻せない喪失の意識性を伴う、無数の心理的、生理的そして行動的反応からなる。悲嘆はなみはずれた強い感情である。

悲嘆の症状
  泣くこと、喪失感、死者を懐かしむ、怒りや罪悪感などを伴った強い苦悩や感情的苦痛の体験、そして喪失が感情的に現れず一過性の感情の麻痺、ショックあるいは否認が起こること、あるいは無感覚や目的の喪失、不安や恐怖、また特に死の性質や経過が残された者にとって外傷的であった場合、苦痛なイメージや記憶の思考への侵入、そして認知の混乱などがある。自分が愛した者がまだ生きている証を求め、また社会的接触から孤立しようとする者もいる。

病的悲嘆とは
  病的悲嘆という用語はよく用いられるが、定義は曖昧である。元来は病的悲嘆は悲嘆が欠如していたり、極端に強かったり、長期化する人のことを指していた。また、悲嘆者が身体的あるいは精神的疾患に罹るような状況も含まれていた。

喪とは
  喪は悲嘆反応全体の中の大切な局面である。喪は体験の規定された枠組み、時間的枠組みと一連の行動、儀式や行事を含む場合もある。生命と死の意味およびその中で遺された者のなすべき役割に関する文化や宗教の見解を反映している。喪の習慣は厳密に定められている場合もある。

悲嘆は終わるのか
  悲嘆が消失する、あるいは去るという意味で解決すると考えるのは誤りである。ほとんどの人では、悲嘆は制限され、抑制されているにすぎず、ありふれた引き金に反応して再び現れるのである。悲嘆は、解決するのではなく、和らぐのである。

遺された者が前に進めるようにどのような助言ができるか
  そのようなことはできない。そしてまた、試みるべきではない。配偶者、子どもあるいは同胞の死は永遠であり、遺された者の悲嘆もまた永遠である。健康な人はそれぞれ悲嘆に対処する方法を見出す。対処の最も人間的な方法は、愛するものを記憶の中で生かし続けることによって和らげることである。遺された者が死者との関係を維持するのは、正常で健全なことである。

  大切な所有物や思い出は、死者を物理的に失った者にとって死者を生かし続けておいてくれるものであり、大切な感情的つながりは消えず、関わる者はそのようなつながりを評価尊重し、またそのつながりを促すことも学ばなければならない。死者との関係を持続するための感情的に適切な方法が確立すれば、より快適に生きていくことができる。

  遺された者に愛するものを軽視するようなかたちで、「忘れなさい」あるいは「前に進みなさい」と説得することは何の助けにもならない。遺された者には自分が心から気づかっていることを示すべきである。話したがっているときは、耳を傾けるべきである。

遺された者によく起こる問題は
  友人や家族は悲嘆に耐えられずに遺された者をさけることがあり、あるいは遺された者と一緒にいても、悲嘆の気持ちを表現させないようにすることがある。

7、阪神淡路大震災で子供と死別した母親の言葉より
  『喪失体験と悲嘆』(医学書院)

悲嘆者との関わり
 1、 援助者はあくまで「聞き手」に徹するだけでよい。
 2、 悲嘆者の中で少数ではあるが、病的悲嘆反応を引き起こし、専門的治療を必要とする人もいる。
 3、 時間がすべてを癒すのではない。悲嘆による悲しみは生涯残るものである。

悲嘆を援助する際に、好ましくない態度
 1、忠告、説教、勧告、指示的な態度
 2、死の現実に対して直面化を避ける態度
 3、死を因果応報論として押し付ける態度
 4、悲しみを比較する
 5、叱咤激励すること
 6、悲しむことは恥であるとの考え
 7、時が癒すとの楽観的態度

してほしかったこと
夫と娘の面倒をみてほしかった。何もしてほしくなかった。わかったような態度。
人と電話をするのもつらかった頃、ハガキをくれて「返事はいらないからね」と書いてあった。さりげなく気にかけていてくれるということを知らせてくれるのが嬉しかった。子供の冥福を祈ってくれることが、自分をなぐさめるより嬉しかった。
自由に悲しみ淋しさを味わわせてほしかった。
やはり亡き息子と私たち遺族のために祈って欲しいし黙して共に悲しんでほしい。
何年たっても亡くなった子どもは帰ってこないというこの悲しみを共感してほしかった。
何もしてほしくありません。子どもを亡くしたことのない人の慰めや考えなど、まだまだ受け入れることができません。だから、黙って受け止めていてくれるだけで良いのです。
一人にしてほしかった。家事のこと家族の食事などを作ってほしかった。しかし、実際に体験しないとその人の気持ちは理解できないと思う。
何も言わずに手を撫でるとか肩をさするとか、とにかく黙っていてほしかった。手紙は有難かったです。都合のいい時間に読むことができるからです。また、直後だけではなく継続して数ヶ月に一度ぐらいの形でお便りをくださることは、ずっと心にかけてくださるのだ・・と心の支えになりました。
私の泣きさけぶ話をきいてほしい。私はどうしたらよかったのだ。
全面的に私の悲嘆、絶望、痛恨を等身大に受け止めてほしかった。
なくなった子どものよい点を話してほしかったし、だまって私の話しを聞いてほしかった。私の決定したことを認めてほしかった。
息子をいつまでも憶えていてほしい。丸ごと理解し、受け入れてほしかった。

してほしくなかったこと
震災後に生まれた子どもに対して、「生まれかわり」を主張されること。学校の教師が生徒にむりやり書かせたかわいそうな母親あての激励の手紙の束。まだ若いじゃない、やりなおせる、と言われたこと。
いやだった言葉は「がんばってね」「一日も早く忘れて」・・そんなことできるわけがない。年賀状に子どもの写真付きを震災後も毎年送ってくる人が数人いる。
枠のなかにとじこめてほしくなかった。例えば、あの時からもう1年または2年経つのだから「元気になっている」と強制されること。私はいつも回りの人々が要求する顔をして生活していたように思う。日本という国は苦しみや悲しみの中にいる人を健康で幸福な人々が自分の勝手な好ましい姿になってほしいと強制する社会のように思われた。
「もう1人の子どもが残っているでしょう」とか「もう何年もの歳月が過ぎたから元気になったでしょう」などという言葉。両親の亡くなった孫をすぐに忘れてしまったような態度。
がんばって、早く元気になってなどというはげまし。
家に入っていろいろ世話をしてくれたこと。
私の前で大泣きされたり、泣きながら抱きつかれたりするのは困りました。頭の中は混乱して、平静を装っているのが精一杯の時期に、次々たたみかける様にいろいろな言葉を浴びせられるのは本当につらかった。「がんばってね」(今でも精一杯がんばっている)。「早く乗り越えてね、早く元気になってね」(とても乗り越えられない、とても元気になれない)「ご主人も息子さんたちもいるんだから・・」(亡くなった子どものことで精一杯・・)形だけの言葉がけは必要ありませんでした。
「立ち直り」や「悲嘆にはプロセスがある」などと言って「あなたは、今は何年も経つのだからこのような状態でしょ・・」と、おしつけがましく私の状態を解明しようとする人々の話。1人1人の感情をひとまとめにしてしまうような考え。
理屈で説明しようとすること。すべてをあいまいにしようとする話。
次男が生まれたら、ある人が「悪縁を切る子どもが生まれてよかったですね」と言われた。亡くなった子どもが私たちのとって悪縁をもたらしたように考えられているかと思うとゾッとした。
娘を息子の生まれ変わりと言われること。息子は息子で誰にもかわってほしくないし、そうではありません。
娘を出産する時、息子の生まれ変わりと言われたこと。
娘が誕生したら息子の生まれ変わりという言葉。あの子はあの子でいつも生き続けているのに。日本の社会では家族に不幸なことがおこると因果応報的に考えられ、先祖か私たち両親に悪い行いがあったためと責められているように思ったし、そのため長い間人前に出ることができなかった。因果応報の考えで人の不幸を見ないでほしい。

8、話を聞くときのコツ  精神科の成書より引用
話を聞く前に行うこと
 適切な時間と場所を確保する
 過度な時間を設定しない
 視線をあまり向けなくても時計が見えるような座席 位置を決める
 中断を避けるようにする
 限界設定を明確にする

机と椅子の配置
古河良晧師
座席の位置
 (お互い90度に坐るのがよい)

話を聞く時の指針
 始めの5分は自由に語らせる
 相手の話を導きだすような質問をする
 相手の言葉を用いる
 行動を抑制できなくなったときの兆候に注意
 専門用語や学術用語は避ける
 「なぜ」で始まる質問は避ける
 時期尚早な励ましはさける
 不適切な行動(脅しなど)は許さない

精神科面接のテクニック
  相手がどのように感じているかを、共感するように理解すること。その理解が相手との間にラポールを確立する決定的な基礎となる。
  自分の悩みを、心配して耳を傾けてくれる相手と分かち合うという体験それ自体が、多大な緊張緩和をもたらすのである。
  相手の言葉を用いる。その言葉自体が重要な意味を持つことがある。  

 初回は3つの構成要素を
  1、ラポールの確立
   可能な限り、思うがままに話してもらう
  2、特定の情報を引き出す
   問題、家族背景、社会的経歴など
  3、何か質問がないかを尋ねる
   まだ何か語っていないことがないか尋ねる

  何を話すか、どのように話すか、情報の順番、くつろぎ具合、話に伴う感情、話の一貫性、情報が明かされるタイミングなど、相手がどのように考え感じているかを、できるだけ気づくようにるべきである。
  矢継ぎ早の質問は避ける、相手が自らの考えを詳細に述べる余裕を与えることが重要。

ご聴聞ありがとうございました
  長岡西病院ビハーラ病棟に見学希望される方はご連絡下さい。
  長岡西病院ビハーラ病棟ではボランティアのビハーラ僧を募集しています。興味がある方は、ご連絡下さい。
  編集後記 
総会記念講演の内容を、当日発表スライドを基に掲載致しました。
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