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生老病死と向き合う あなたのそばに
日蓮宗新聞 令和6年4月20日号
先立った妻が残した日記
日高 隆雄

「何もしてあげらなかった」の答え

 夫(Aさん)と2人暮らしの70代の女性(Bさん)でした。Bさんは、白血病の夫の看病もあり、不正出血を認めていたのですが、婦人科受診が遅れてしまいました。子宮がんでかなり進行した状態でした。気丈な人で「てっきり私が夫を見送ることになると思っていたのにびっくりです。私はこの歳まで生きてこられたのだから、いつ死んでもかまいません。ただ、夫は私がいないと何もできない人だから、少しでも長生きできるように治療をがんばります」と話してくれました。
 副作用に耐えてがんばりましたが、残念ながら病気は進行しました。亡くなる前、Bさんは私に1冊の日記を見せてくれました。イラスト付きの日記で、実物より格好良すぎる私の顔のスケッチ、病院スタッフヘの感謝の気持ちなどのほかにAさんへの感謝の気持ちが毎日綴られていました。白血病を克服して自分の分まで人生を楽しんでほしいとも。
 「Aさんにはお見せしないのですか」「恥ずかしいのでそれはちょっと。夫には私が死んでから読んでもらうことにします」
 AさんもつきっきりでBさんを看病しましたが、半年後、亡くなりました。
 その後、落ち着いた頃を見計らって家に伺いました。2人で、Bさんの遺した日記を眺めながら、「Bさんは、“Aさんは自分かいないと何もできないので、少しでも長生きできるようにがん治療をします”とおっしゃっていましたよ」と伝えました。
 「そうですか。自分の病気でさんざん迷惑をかけたのに。自分は何もしてあげられませんでした。後悔することばかりで」
 「そんなことはありませんよ。一生懸命、看病しておられました。日記にもAさんへの感謝の言葉がいっぱいですよ」
 Aさんはその3年後、白血病が悪化しました。生前、達筆なお手紙をいただきました。
 「妻の分まで長生きさせてもらいました。子どもや孫たちの思い出を土産に笑顔で妻のところに逝きます」
 最愛の妻が待つ仏さまの世界へ旅立た
れました。
(日蓮宗ビハーラネットワーク世話人・富山県妙輪寺住職・産婦人科医師)
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