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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 令和5年1月20日号
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衆生救済とは…
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認定臨床宗教師 酒井 菜法
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仏縁をつなげるために、あなたのそばにいる
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私の活動の1つに訪問看護ステーションの患者を訪問することがある。ステーションの看護師から患者に「お話を聞いてくれるお坊さんがいるので、たまには違う人とお話ししてみますか」と紹介していただく。患者の都合の良い時間に1人で伺い、1時間ほど会話をする。
当然ながら、お墓のセールスなど営利目的ではない。また檀家に勧誘するための布教を目的ともしていない。ただ衆生救済を目的として傾聴のために訪問する。僧侶は衆生救済が務めであるというものの、病に伏した患者を目の前にするとどう救済したらよいのか悩み、自問自答し、無力さを思い知る。
先日訪問した患者Aさんは筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した50代女性。夫は若くして癌で亡くなり、1人娘は結婚して家を出ている。Aさんは大手企業の総合職として働き、充実した日々を送っていたが、ある日突然ALSを患い、訪問看護の助けを得ながら住み慣れたマンションで1人暮らしをしている。
家族が幸せに溢れていた面影のある部屋で、今は人工呼吸器をつけるかつけないかの選択を迫られながら、身体のすぺてが硬化しベッドに横になるAさんと専用のパソコンで会話をする。人工呼吸器をつけると死が訪れるまでこの伏態が続く。人工呼吸器をつけなければ時間をかけながら溺れるように死を迎える。
「どちらも壮絶で怖い。娘に迷惑をかけたくないから今すぐ死にたいのに、生きていてくれれば孫を見せられるといわれた」。
表情が硬化したAさんからの言葉はパソコンの文字のため、感情を汲み取れない。泣きたいのか怒っているのか。ましてやAさんは選択を私に委ねたいわけではない。いつも献身的にサポートしてくれる看護師ではない別の誰かに聞いて欲しいのだ。看護師からとても明るい人だと聞いていたからこそ、病気をもつ可愛そうな人ではなく、対等に話をすることを心がけている。
そばで仏さまのご加護をいただけるよう祈る気持ちで話を聞く。傾聴も大事な活動、でもそれ以上に仏さまとの仏縁をつなぎ、安心感を得てもらうのが僧侶の役目だ。
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(日蓮宗ビハーラネットワーク会員)
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