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日蓮宗新聞 平成31年1月20日号
仏さまの慈悲
松森 孝雄

同苦とは単なる同上ではない

 日蓮聖人は『諌暁八幡[かんぎょうはちまん]抄』の中で、「涅槃経[ねはんぎょう]に云く『一切衆生の異の苦を受くるは悉[ことごと]く是[これ]如来一人の苦なり』等云々、日蓮云く一切衆生の同一の苦は悉く是日蓮一人の苦と申すべし」と仰せである。
 ここで引かれた涅槃経の文は、悩み苦しむ人びとを見た如来が、我がこととして悩み苦しむ慈悲を示された一節である。
 「一切衆生異の苦」というのは、人びとが受けるさまざまな苦しみのことである。如来(仏)は、多種多様な「異の苦」を、すぺて自身の問題として背負い、その解決を願われているのである。
 これらを踏まえつつ、日蓮聖人は、あえて「同一苦」と仰せになられた。
 これは、一切衆生の多種多様な苦悩が、同一の原因によって起こることを明快に示され、その一切を担い立たれたのである。
 では、そもそも仏さまの「慈悲」とは何であろうか。
 日蓮聖人がその書の中で折に触れて引用される大乗仏教の祖と仰がれる竜樹の著『大智度論』では、一切衆生に楽を与えること(=与楽)が「慈」であり、一切衆生の苦を抜くこと(=抜苦)が「悲」であるとされている。全ての人の救済のために「抜苦」そして「与楽」の道を開くことこそが仏さまの慈悲なのである。
 「同苦」とは単なる「同情」ではない。苦しみを乗り越えるには、その支えを頼りながらも自ら強く立ち上がる以外にはないのである。
 そのための大きな力となるのが、周りの支えであり、仏さまの慈悲であり、「南無妙法蓮華経」である。
 私たちは、さまざまな悩み苦しみの只中にいるとき、視野が狭くなり、悩みの中に悩みを作り、もがき苦しんでしまう。しかし、仏さまや日蓮聖人は、決して見放さず、私たちに寄り添ってくださっていることを忘れてはならない。と同時に、自分自身が仏さまや日蓮聖人の振る舞いの如く、悩み苦しむ人に寄り添うことによって共に「生きる」力となるのである。そこに尊き「いのち」(あなたの中にいる仏さま)に合掌の姿が自ずと生まれてくる。
 (ビハーラ・ネットワーク事務局員)
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