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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 平成30年11月20日号
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今が1番幸せ
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林 妙和
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本人、家族の心に寄り添って
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縁ある施設にはさまざまなクラブ活動があり、個々が取り組み創る作品と全体で創る大作が秋の文化祭に展示され、ご家族、近隣の人らが訪れます。
顔馴染のAさん親子が息子さんに車イスを押してもらい作品を見ていたので声をかけると、「母の働く姿しか知らなかったので、小物を作ったり、絵を描いたりする今の姿は想像もつきませんでした」と息子さん。Aさんはコーヒー好きで、喫茶室でコーヒーを楽しむうちに、施設の新しい仲間と打ち解け、クラブ活動の見学に誘われて、参加してみると楽しくなったそうです。心が動けば体も動くということです。
親子2人暮らしのAさんは、数年前の入院をきっかけに、物忘れが強くなり要介護となりました。息子さんは不規則な勤務と、介護疲れから体調を崩していました。賢明で気丈であった母親の言動の変化が受容できず、大声で叱り、表情も険しくなるばかりでした。そんな息子さんの対応にAさんの不安も増し、無表情になっていったのです。悪循環を回避するため、思い切って施設に入所させたところ、彼は親を見捨てたような罪悪感にとらわれ、次第に足が遠のくようになりました。
ある面会日「ご飯は食べたの?」と以前の優しい母に戻った言葉使いに驚き、今までの空白の時間を埋めるように一緒に散歩し、ランチやコーヒーを楽しんだそうです。その穏やかな時間がわだかまりを消し、「おふくろ悪いな」と言うと「私は今が一番幸せ」と一言……。「この一言で心が救われました」と話す彼の眼差しから母への深い心情が伝わってきました。
高齢になっても住み慣れた地域で最期まで自分らしくと「地域包括ケア」を推進されていまずが、それは理想でもあり、それぞれ抱えた事情や、気持ちも変化して正解はないのです。
本人にとってどのような生活の場が最善かは、本人の意思を尊重し、望む生活と心に寄り添う切れ目のない支援が家族と本人両者に必要なのではないでしょうか。
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(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク世話人)
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