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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 平成25年3月20日号
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夫婦共有の穏やかな時間 −傾聴から−
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林 妙和
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家族がお互いを必要としている
残された時間をどう過ごすか、人生の全うが尊厳を守ること
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春のひざしが暖かな日、Aさんのお見舞いに伺い、ご夫婦と久しぶりにランチに出かけました。「梅がきれいだねえー」車中からの景色を楽しみながら、予約のホテルに到着。車イスを用意したが、「歩くよ」と、Aさん。ゆっくりエレベーターの方向に進まれたところ、妻のBさん「あなた、こちらですよ」庭に面した和食レストランを指さして案内。季節感を楽しみ、味わった後、Aさんは
「これから最上階に行きたい」、妻は驚いて
「えーなんで?」
「俺、高いところでと言っただろう」
「だから私、一番高いランチ頼んだのよ〜」と、お互いの「高い」にズレがあった二人は大笑い。ユーモアあふれた会話を楽しみながら…。住み慣れた街の景色を一望できる最上階に車イスで移動。夫婦共有の大切な時間が穏やかに流れる外出でした。
実はAさん、昨年肺がんが見つかり余命三か月の宣告を受けたのです。抗がん剤、放射線治療の副作用によって体力が消耗し、こんなに苦しむなら死にたいとまで思われた。このまま諦めたくないと、家族はがん相談窓口を訪れた。そこで他の専門医に相談する方法(セカンドオピニオン)を知った。
受診の結果、Aさんは「医師との出会いも縁だな−」と転院を選択されたのです。新たな治療方針で状態が落ち着いたところで「家に帰りたい」というAさんの願いにチームで支援。携帯酸素の自己管理など、ご本人・家族の努力の成果もあり、在宅療養が実現。Aさんらしい生活を取り戻されて六ヵ月が経ちました。残された時間を、どう過ごすか自ら選び、人生を全うするのが尊厳を守ることです。
家族が傍にいることが、あたりまえから、改めて「お互いを必要としているんだな〜感謝だよ」とAさん。一方、病状には波があり、こころ安らぐ日々ばかりではない。妻のBさんの気持ちも揺れ動くのです。家族もまた大切な人が、病気を告知された時点で様々な葛藤が始まっているのです。
家族は第二の患者とも言われています。身近に寄り添い支える人・場があることで、心情が表出されて、癒され、安らぎ現実を受け入れていくきっかけにつながることもある。私たちにできることは信仰に培われた慈悲心で、その人に関心を寄せ日頃の生活の様子を見守り、変化のサインに気付く。そしてよい聴き手となり、想いをありのままに受け容れ、黙している時も心の声に添い、共感しようとする誠実な姿勢が大切なのです。
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(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク世話人)
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