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日蓮宗新聞 平成17年5月20日号
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もっと身近に ビハーラ
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林 妙和師
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お年寄りも動物も重要な役割
『いのちはいのちに 触れてこそ輝く』
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新緑まばゆい瑞々しい季節となりました。私が勤務する老人保健施設アウン(愛知県一宮市)にはミニ動物園があります。ここで過ごすポニー、ヤギ、ヒツジ、ウサギたちも春を謳歌し、イキイキとしています。
サツキが咲き誇るこの五月、アウンでは毎年恒例となった「動物フェスティバル」を開催します。そこでは動物たちとのふれあい、エサやりを体験してもらったり、ヒツジの毛刈りやチキンレース、ポニーの引き馬、クイズなど目自押しです。
介護度がどんなに高い方でも参加できるよう配慮しながら、利用者と家族、地域の皆さんにも自由に参加してもらい、その人数は八百人を超えます。
皆さんがふれあいを通して見せる最高の笑顔!
まさにいのちの輝きです。それぞれの思い出の一ぺージとして残ることを願ってスタッフも懸命に頑張るのです。
そんな楽しいイベント以上に大切にしていることは、日常のふれあいです。それは十年前にショッキングな出来事が起こったからです。
ウサギとのふれあいの際に、まるで物を扱うかのように放り投げ、かき回し乱暴に扱う子、電池を確認するように探す子。
放り投げられたウサギはかわいそうに背骨が折れてしまいました。母親はそれを見ているだけ…。
生き物とふれあった経験がない子ども達が思いのほか、多かったのです。この事実に私たちは衝撃を受けました。
以来毎月、近隣の保育園、小中学校、養護学校と交流を持つようにしました。
動物たちを恐がる子には、お年寄りがやさしく面倒を見るほほえましい姿が見受けられます。
公園デビューならぬ“動物園デビュー”が近隣の若いお母さんたちの社交場となっています。お年寄りとお母さんと子どものふれあいの橋渡しに動物が一役買う形です。
学校帰りにふらっと一人で施設に来る子もいます。その時は職員が声をかけて子どもの疑問に答えたり、動物たちと接することができるようにしています。
地道な努力によって今は「いのちの教育」に施設が大きな役割を果たしていることを実感しています。
心強い応援団のお二人を紹介します。
真実ちゃん(中学生)
核家族。幼稚園の年少組から交流会に参加。
働くお母さんの帰りをアウンで友人と時には一人で、動物と遊び過ごすことも。なじみのお年寄りを祖父母のように慕って可愛がられている。施設で生れた子ウサギの里親になり世話をしている。今でもイベントにはボランティアで参加し、車椅子の方の介護も担う。
○さん・戦争中は軍馬の世話係(輜重兵)
ポニーの面倒を見たい一心でリハビリを頑張り、勧物園まで毎日エサやり。今は子どもたちにエサのやり方、好む草などを教えることが生きがいに。
動物を通したふれあいの効果は次のようになります。
◎話題や会話が広がる。動物への話しかけにより発語が増える。
◎心の安らぎ。ストレスや孤独感の癒し。
◎日常の運動量が多くなり、リハビリの効果がある。
◎動物の世話をすることで責任感・共感・慈しみ・やさしさがはぐくまれる。
今ではアウンが地域に溶けこみ、そこで繰り広げられる人と人の関わりはごく自然な光景となっています。
生きとし生けるもののいのちはみな尊い。人も動物もみんな同じ。子どもたちにいのちの育み、いのちの重みを伝えるため、お年寄りも動物も重要な役割を果たしているのです。
「いのちはいのちに触れてこそ輝く」。これこそ介護の原点なのです。
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