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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 令和5年7月20日号
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仏さまに見守られて
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認定臨床宗教師 酒井 菜法
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万物を慈しみ、祈りの時間で安穏を
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祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理[ことわり]をあらはす
平家物語の冒頭は現代の小学生も国語の授業で暗唱する。お釈迦さまがご入滅されだ時、鶴が一斉に舞い降りたようにして沙羅の花が咲き地面を真っ白に染めたと言い伝えがある。沙羅の花は夏椿とも呼ばれ、真っ白な花は可憐で美しいが、明け方に咲きタ方には散る。その儚さを平家物語では諸行無常の道理にはどんなに盛者であっても敵わないさまを説いている。
私か小学生の時には暗唱しただけで、意味は全く理解できなかった。あれから、紆余曲折を繰り返し思い通りにならないことばかりの経験により、ようやく理解できた瞬間があった。それは、境内に響く梵鐘の音を聞きながら、沙羅の花が散るさまを間近に見たときだ。2500年前、お釈迦さまがご入滅された場面にいるような感動に包まれた。そして、どうあがいても、仏さまに身を委ねるしかないと思うと少し気持ちが楽になった。
同時期の境内にはゲンジボタルが舞う。日本のホタルは源平合戦に由来した名がつけられ、大きく光が強いホタルが源氏蛍、それに比べて小さいホタルが平家蛍である。小さなホタルの名が付く平家は、平家納経でも有名だ。心の安穏や繁栄を願って厳島神社に法華経を納経している。現世の源氏と平家が来世でホタルとなって、お寺の梵鐘と法華経を聞きながら育ち、散った沙羅の花の上をお盆が待てない御霊となって飛んでいるのではと思いをはせる。
万物から諸行無常の儚さと仏縁の不思議さを教えられる。どの時代も万物を慈しみ、自身を振り返る祈りの時間が心の安穏に大事なのである。あなたのそばにいる仏さまが、いつでも見守っている。
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(日蓮宗ビハーラネットワーク会員)
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