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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 令和5年4月20日号
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がん終末期の強力な助つ人
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日高 隆雄
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付き添いの娘たちと医療スタッフに見守られて
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これまで多くのがん患者の終末期医療に携わらせていただきました。
先日、亡くなったのは50歳代後半の婦人科がん患者さんでした。
「とにかく痛いのだけは勘弁です」。
「死後の世界はどうなるのでしょうか」。
「不安なので先生は毎日、私の顔を見に来てください」。
死を意識してさまざまな不安がでてきます。痛みはある程度緩和できますが、心のケアは医療スタッフだけでは不十分です。ここに、長女、次女の2人の強力な助っ人が現れました。父親は病気で亡くなっており、母1人で育てた娘たちでした。「どんなに大変でも母をサポートします」と心強い表明です。2人とも乳飲み子を抱えて大変な状況でしたが、交代でつきっきりの看病。母は徐々に不安感がやわらいでいくようにみえました。「もうちょっと長生きしたかったなあ。でも覚悟はできました。夫のところへいくのもちょっと楽しみです」。
枕元にはお経の本が置かれ、夫、娘たちとの家族写真も飾られました。
亡くなる2日前、付き添いの娘たちと我々医療スタッフヘ「本当にありがとう」とお別れの言葉の後、意識は徐々に薄れていきました。
看取りの場でいつも願うのは、安らかに仏の世界へお迎えいただくことです。心の中でひたすらお題目をお唱えします。
患者は静かに夫も待つ仏さまのもとへ旅立ちました。娘たちは泣きながらも、母の髪を整え、お化粧をしてあげました。弥勒菩薩(みろくぼさつ)のような慈愛に満ちた顔でした。2人の娘たちの献身的なサポートで迷いなく、安らかな「臨終正念(りんじゅうしょうねん)」の境地でお迎えを待てたのだと思います。「母はこれで本当に楽になれたのでしょうか」。
「優しい娘さんたちに囲まれての旅立ちでした。これからは仏さまとなってみなさんをお守りしてくださいますよ」。
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(富山県妙輪寺住職・産婦人科医師・日蓮宗ビハーラネットワーク世話人)
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