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日蓮宗新聞 令和2年10月20日号
「寄り添う」ということ
今田 忠彰

Aさんの人生の希望を叶える支援

 私が、障がい者の特定相談と、介護保険のケアマネージャーとで担当しているAさんは70歳で、知的障がいがある。数年前に脳梗塞で左半身に麻婢があり、呂律[ろれつ]もままならない。周りの人たちは、Aさんの言葉の3割程度しか聞き取れない。
 Aさんは、弟家族と同居しており、親の遺産があり、生活には困らない。成年後見人も選任された。
 Aさんは、自立するため、弟の家から出て1人暮らしを希望している。Aさん曰く「弟たちに行動を制限されている。人権蹂躙[じゅうりん]だ。自由になりたい」と言う。
 区の行政も、弟さんも介護事業者も、Aさんが高齢で障がいがあり、1人暮らしができるのか心配している。
 弟さんは「兄のためを思って言ってあげても、分からないなら、1人暮らしでも何でもしてみたらいい。その代わり、出て行ったら、2度と戻らないでほしい」と言う。弟家族の、長年の苦労が、偲ばれる。私はまず、Aさんとの信頼関係を築くことから始めた。
 Aさんの独立したい、との希望は、長い間の夢だった。趣味の山でのキャンプもしたい。もう歳だから、いま実行しなかったら、一生実現できない、と切実に訴える。
 私は、相談員として、ケアマネとして、できるかできないか分からないが、Aさんの希望が実現できるように、一緒にやってみよう、と考えた。
 まず、70歳の1人暮らしの障がい者に、貸してくれるアパートがあるだろうか。食事のこと、掃除・洗濯・買い物や入浴など、問題は山積みである。もう、弟家族の協力は期待できない。
 もし、アパートが見つかって、1人暮らしを始めたとして、もうどうにも1人暮らしができなくなったら、その時は、介護付き高齢者住宅やグループホームなどを探して、安全に生活ができるようにすればいい。誰が何と言おうが、Aさんの人生なのだから。「寄り添う」とは、何とか本人の希望を叶えること、自己実現を支援する視点が大切なのだと思う。
 (日蓮宗ビハーラ・ネットワーク世話人)
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