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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 令和元年12月20日号
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「私の最後の頼みごとです」
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今田 忠彰
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30年会っていない子どもと会いたい…
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50代後半のAさん、会社で急に具合が悪くなり、救急搬送された。末期の膵臓癌たった。医師からは余命3ヵ月と宣告された。
日ごろからの本人の希望で、私が癌になったら隠さないで、本当のことを知らせてほしい、と。
家族は本人の意向を尊重し、一緒に主治医の説明を聞いた。すぐに手遅れだったことを覚り、会社を退職し、身辺整理が始まる。3ヵ月など、アッという間に過ぎてしまう。段々に痛みが出てきたので、再度入院することになった。
お見舞いに行くと、住職に思い切って話したいことがあると言う。「最後に会いたい人がいる。妻と結婚する前の20歳の頃に、付き合っていた人がいて、男の子が産まれた。しかし、その女性が早く亡くなったので、子どもを女性の両親に預けた。その後、現在の妻と出会い、結婚した。男の子とは、30年も会っていない。このことは、誰にも話していない。自分ももう、死ぬと分かったら、ひと目会って、ごめんなさい、と言いたい。こんなこと、住職にしか頼めないんだ」。
さて、困った。奥さんが知らないこと。結婚前とはいえ、子どもがいたとなると、穏やかではない。
そこで、まず、その男の子に会ってみることにした。男の子が、どう思っているか、分からないので。Aさんから、両親の連絡先を聞いて、電話をしてみた。両親は、とっくに亡くなっていて、男の子が、電話口に出た。ことの成り行きを聞いた男の子は、「分かりました、お会いします。ただし、奥さんの了解があったらにしましょう」と言う。正に、正論である。
私は、意を決して、奥さんに、お話しした。
奥さんは、黙って聞いていたが、男の子が、隠れて会おうとしなかったことに、感心した。まず、男の子に会いたい。
男の子は、奥さんの了解を得て、30年ぶりに父親と再会した。
父子の再会があって、1週間後に、Aさんは、静かに他界した。
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(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク世話人)
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