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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 平成28年2月20日号
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あきらめないで
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林 妙和
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いのちと申す物は一身第一の珍宝なり
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がんは2人に1人が罹[かか]る身近な病気といわれる時代。早期発見は治癒率の向上に繋がるが、いのちに関わる病気というイメージは否めない。それだけにがんを告知された人の葛藤は多様である。
Aさん(70歳・男性)は検診で、直腸がんが見つかり、医師から手術が必要で、人工肛門の可能性もあると説明を受けた。
Aさんは「がん・手術・人工肛門?」考えてもみなかった結果に頭は真っ白になって「手術は嫌だ」と答えた。医師から別の専門医の意見を聞くセカンドオピニオンの説明もあった。しかし、インターネットで調べただけでもさまざまな情報が溢れて何か正しいか判らなくなった。
Aさんは「もう70歳まで生きたから、このままでいい!」「がんは手術しても転移・再発することがあるから心配」「あと何年生きられるか分からないのに袋をぶらさげた生活なんて嫌だ」と、揺れ動く気持ちを仕事で紛らわせた。そんな父の姿に「諦めないで…」と最愛の娘にも泣かれたAさんは家族とセカンドオピニオン外来を訪れたが、同様の見解だった。
Aさんは長年の信徒。妻が駈け込んだり、夫婦で訪れたり、思いを何度も聴く中、専門的な助言が要ると判断して、地域活動でご縁のある皮膚・排泄ケア認定看護師Bさんを紹介すると、迷わずAさんはBさんを訪れた。人工肛門について装具を用いて説明を受けながら装着方法もシンプルで、入浴も旅行も今まで通り楽しめることが分かり、Aさんの抱いていたイメージと異なって、「ホッとした」と、笑みを浮かべた。周りに支えられ心の整理がついたAさんは後日、総合病院の受診に踏み切った。そこにはBさんがいた。「これも仏さまのお取り計らい」とAさんは感謝し、医師の説明も落ち着いて聞くことができて、治療方針も決定した。
一般的に医師は病状や治療法などを説明し、患者が納得・同意という方法で治療が進められていく。しかし、その過程にある患者の不安や心の痛みまで、時間をかけて関わっていないのが現状である。
人びとの「苦」に寄り添う僧侶も万能ではないから、必要な時は信頼できる専門職と協力して、病気の理解を深めたり、真摯に迷いや心の痛みに寄り添っていくことで、本人が病気を受け容れ治療を選択した一例である。
「いのちと申す物は一身第一の珍宝なり…」
Aさんは家族とお題目と共にがんと向き合い生きる一歩を踏み出した。
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(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク世話人)
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