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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 平成27年11月20日号
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人に合わせる
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三井 妙真
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相手を思いやる心、自分のパワーも調整
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私たちは毎日暮らしていくなかでいろいろな人と出会ったり、思わぬ体験をして学ぶこともあります。
先日、いきなり訪れた男性が話を聞いてほしいということだったので住職に対応してもらいました。男性が帰ってから様子を訊くと、少し話が進むとまた同じ話に戻ってしまい、それを延々と繰り返していた。精神的に不安定で通院もしているとのこと。
普通の精神状態の人であれば簡単に「その話さっききいたよ」と言えますが、精神的に不安定な人には言えません。これは認知症の方とお話する時の対応にも似ています。精神状態が安定している人であれば「あ、そう(2回目)だっけ」で済む話ですが、そうでない人には「その人を否定する」ことになってしまうのです。住職も粘り強くお話を聴いていたようですが2時間を過ぎたあたりでどうにか話が終わり、男性は帰られたそうです。
このような方が訪れるのは稀なことですが、応対の心得はある程度知っておいた方がよいでしょう。
認知症や精神が不安定な方はちょっとしたことで深く傷ついてしまいます。特には、あまり口を挟まずよく話を聴いてあげること。否定的なことを言わないこと。怒らないこと。この3つはよくよく心得ておくと良いでしょう。
また、時にはもっと深く学ぶことも大切です。私の書の師がとある講演で「満つれば欠ける。満ちた時にこそ響いてくるものがある」と語っていました。いくら書の大家といってもいつでも素晴らしい作品が一発で書けるものではない。日々積み重ねてきた修練の賜物なのである。空にある月は毎日満ち欠けを繰り返しているけれども満月の時には光り輝いている。書においても満月に当たる時こそ、人の心を打つ素晴らしい「響き」が生まれるのではないでしょうか。
これと同じように何事にも積み重ねが必要ですが、それを上手に活かしていくには見極めも大切です。自分と他の人では価値観・満足度が違って当たり前。実践する時はいつでも満月のフルパワーが良いというわけではないのです。
例えば、私が子どもの頃は「挨拶は大きな声で元気よく」と習いましたが、頭が痛くて困っている人に向かって大きな声で挨拶をしても少しも喜ばれず「もっと小さな声で」と言われることだってあるかもしれません。
相手を思いやる心で自分のパワー(知識や技量)を調節し、相手に喜んでもらえたら、それが何より一番よいことですよね。
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(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク会員)
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