平成18年度 ビハーラ活動講習会実践編報告書
日 時 平成19年2月6日
場 所 日蓮宗宗務院
参加者 37名
1、開催の経緯とねらい
近年、病気や高齢化、障害などで苦しむ人たちに精神的な癒しや安心が得られるよう支援する活動に対して宗教者への期待が高まっている。いわゆるビハーラ活動である。宗門ではビハーラ活動の基礎知識修得のため、「社会教化事業講習会」において日蓮宗ビハーラ活動入門編を開催した。ビハーラ活動をより推進するため社会教化事業活動講習会の一環として「日蓮宗ビハーラ活動講習会実践編」が開催された。この講習会はこれからビハーラ活動の実践を志す人たちが、基礎知識習得の充実や具体的方策の修得を目的としている。
2、開講式
はじめに梶山寛潮伝道部部長導師により法味言上され、「高齢化社会において精神的・肉体的苦しみに寄り添う菩薩行は仏子としての本分なり」と回向された。続いて梶山伝道部長より「ビハーラ活動は宗門や社会から求められている大切な活動です。本日の講習会が参加された皆様にとって意義ある講義となり、自からビハーラ活動を実践しさらに周囲にも広めていただくことを期待しております」と抱負が述べられた。
今回の講習会を企画運営したNVN(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク)代表の柴田寛彦師からは「ビハーラ活動は生老病死に悩み苦しむ人々と苦しみを共にし、精神的・身体的な苦しみをとり除き、安心が得られるよう支援する活動です。皆様には今日一日有意義な学習をしていただきたいと思います」と挨拶があった。
3、講義と実習
柴田寛彦師「自死対策とビハーラ」
日蓮宗教師であり医師でもある柴田師は、導入として、夫(中間管理職・五十五才)が職場上の悩みから自死した妻の手記を紹介した。
講義では自殺防止対策有識者懇談会作成の「自殺予防に向けての提言」を紹介した。提言によれば、わが国では平成十年を境に自殺者が急増(三万人超・前年比七千人増)し、以後横ばい状態である。特に中年男性の自殺死亡者が増加傾向にあり、統計上自殺原因は健康問題、経済・生活問題、家庭問題が上位を占めるが、実際には人生観・価値観や地域・職場のあり方等、統計に表れない様々な社会的要因も影響しており、近年の自殺増加の背景には「生きる不安」や「ひとりぼっち(孤独感)」の状況が存在しているという。自殺に至る心理状態を分析すると、自ら自殺を選んだのではなく、唯一の解決策が自殺しかないという状態に追い込まれる過程があると指摘している。
柴田師は、これらの現状を紹介しつつ原始仏典に見る自死とブッダの教説、法華経の生命観、うつ病発見のKEY−QUESTION、自殺予防の十箇条などについて具体的に論究した。
また、柴田師は戦後の日本は個人主義中心で復興してきたが、現代社会においてはその歪が出てきた。個と個のつながり、人間の絆を見直さなければ自殺は減少しないと指摘。私たち日蓮宗教師が本当の地湧の菩薩の自覚を深め、常不軽菩薩を手本として行動できれば自死の減少に少しでも役立つのではないかとまとめた。
林 妙和師「高齢者と家族を支えるためにー事例を通して考える」
日蓮宗教師であり看護師、保健師でもある林師は、加齢に伴う高齢者の身体的器官の主な特徴と変化(視覚・聴覚・口腔と歯・味覚と臭覚・睡眠・歩行・起立・排尿障害・記憶・知能・認知症など)を具体的に解説した。林師は高齢者の心身の変化を介護・看護の現場から写真と事例を紹介しながら説明し、高齢化社会の抱える諸問題について言及し、高齢者と家族を支えるための方策をアドバイスした。
また、「ひとり一人生きた歴史や家族関係があり、現実が受け入れられない葛藤や苦しみも様々です。身体的・精神的苦しみを取り除くためには第一にその人を知り、信頼関係を築くことが必要です。小さな活動が長い目で見れば花咲き実になっていきます。まずは活動を始めてみましょう」と熱心に語った。続いて金朋子氏(老人保健施設アウン介護看護課・介護福祉士)と共に「うらしま太郎パートU」を使って高齢者疑似体験実習の指導をした。参加者は耳栓・眼鏡・重荷チョッキ・膝サポーター・重り・手袋・靴型サポーターなどの装具を身につけ、立ち座り、歩行、薬やお金の識別など加齢に伴う高齢者疑似体験を実習した。実習することにより理解が深まったようである。
岩田親靜師 「ビハーラ活動報告」
NVN(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク)の会員である岩田師は、現在活動している仏教情報センターの電話相談や千葉がんセンターでのビハーラ活動について報告した。岩田師は自身のビハーラ活動を始めた動機について具体的に述べた。「宗教的でもない、家族の気持ちをケアするわけでもない僧侶が増えている(上田紀行著「がんばれ仏教」)。自分自身は自己研鑽のためにビハーラ活動しているのであり、他者の生老病死から自分自身の四苦を知り教えてもらっている」と感想を述べた。また「ボランティア活動は利他行と言いつつ、本当は自分自身のためにしている場合が多いのではないか。仏教者がボランティア活動する場合、宗教間の対話が必要だと思う」と問題提起した。
岩田師は「僧侶としての仏教の死の概念をいくら語ってもかまわない。また語る言葉にいのちの大切さがこめられてもいい。ただ、その僧侶の内から出てくる血肉化された自分の言葉でないと、一切の人々の耳に届かないことは充分承知してほしい」(松本圭介著「おぼうさん、はじめました」)を紹介し、自らの箴言になっていると心境を語った。
4、閉講式
NVN代表柴田寛彦師導師により日月偈、唱題で法味言上された。続いて参加者代表に講習会の修了証が授与された。柴田師は「ビハーラ活動は釈尊在世の時代から、出家者が行うべき修行であり、なすべき活動でした。ビハーラ活動は決して新しい活動ではありません。どうぞ皆さん、小さいことから少しずつ始めて下さい。今回の講義で得たことをその時活用していただきたいと思います」と挨拶し、日程を終了した。
5、参加者の声(アンケートより抜粋)
アンケートの結果、講義・実習に対しては概ね好評を得ることが出来た。ここでは今後の講習内容や宗門への要望・参加者の現在行っているビハーラ活動について報告する。
要望事項
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参加者同士の意見交換の時間がほしかった。
具体的事例をより多く紹介していただきたい。
少数でのグループ学習・グループディスカッションをしたい。
いじめ問題、養育放棄、子どもの家庭放棄の問題なども取り上げてほしい。
疑似体験の時間を増やしてほしい。
ビハーラ活動の日蓮教学的な解釈論を学びたい。
老人障害者への具体的対応方法を教えてほしい。
心を病んだ人への対応の仕方を学びたい。
宗立の緩和ケア施設・デイケアー施設など開設してほしい。
各管区・教区での講習会を開催してほしい。
現場研修したい。
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参加者が現在行っているビハーラ活動
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千葉旭中央病院の緩和ケアセンターの研修会を通じ、傾聴ボランティアをしている。
自坊で弁当を作り知り合いを訪問し、話し相手になっている。
週一回、障害者の介助をしている。
檀信徒の悩み相談をしている。
養護老ホーム・知的障害者施設でボランティアしている。
医療法人(群馬県)で月一回の法話活動と、寺のお堂で無料整体をしている。
今年2月より長岡西病院ビハーラ病棟で非常勤医師として勤務している。
自閉症・障害者の介助をしている。
千葉県ターミナルケア研修会に参加し、余命一ヶ月の方に面接している。
老人介護の施設を持っているので、日々「いのち」とかかわっている。
毎月数人の独居暮らしの老人を訪ね傾聴ボランティアをしている。
小児病棟・脳外科(順天堂医院)で入院中の子どもと遊ぶボランティアをしている。
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6、今後に向けて
アンケートから解るように実践編の参加者は、より具体的実践的な講義を希望している。参加者中約半数の方(14名)が既にビハーラ活動を実践しており、かなりの問題意識を持って受講している。今回の日程では参加者の高いニーズに答えるには無理があるように思えた。次年度から日程を調整(1泊2日程度)し、より充実した講習会開催を希望したい。
新宗門運動「立正安国・お題目結縁運動」取り纏めの中にも、生命尊重社会の実現に向けてビハーラ活動の全国的展開が報告されている。物心両面にわたる宗門の一層の理解と支援を期待したい。
また、昨年のアンケート同様に中央だけでなく各教区や管区単位で講習会開催の要望があった。今後の検討課題としたい。
今回は寺庭婦人と学生に参加を呼びかけた。その結果、寺庭婦人4名、学生1名の参加があった。ビハーラ活動が徐々に展開されていることを感じた。
より多くの希望があるということは、それだけ期待も強いということでもある。充実した講習会の企画を目指したい。