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伝統文化から新生活様式を
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新型コロナウイルスの累計感染者は世界全体で1166万人に達した(7月8日現在WHO統計)。感染者は4月初めに100万人、5月中旬には500万人と急増した。国別では米国がトップの300万人。次いでフラジル171万人、インド74
万人、ロシア70万人と続く。今後も米大陸やインドなどで感染拡大が懸念される。
国内での感染者は2万人を超え、死亡は980人(7月9日現在)。緊急事態宣言解除後も東京を中心に新規感染者が増え感染の第2波が心配される。今後は地域・職種を絞りピンポイントの感染対策が必要という。
6月下旬わが家にもいわゆる「アベノマスク」が届いた。「新しい生活様式の実践をお願いします」とパンフレットが同封されていた。ウイルス対策として個々の基本的感染対策や日常生活での基本的生活様式が書かれていた。今後は「3密」(密閉・密集・密接)の回避や手洗いの励行、ソーシャルディスタンスなど新しい生活様式は欠かせない。
他方、社会ではさまざまな問題が生じている。一律10万円給付金や持続化給付金の遅延。スタッフ不足による混乱する介護現場。大学生の2割が退学を考えているが、支援金給付は1割の学生のみ。保育所・幼稚園の休園による保護者の負担増大。長期休校による学校教育格差などだ。社会保障や教育への公的支援の脆弱さが一気に浮き彫りになった。
今、求められている緊急課題とは、1人ひとりの新しい生活様式の実践はもちろん、政府による迅速な対応と長期的補償、つまり「公と私」の両面から考えることが必要と感じる。
新たに発足したコロナ新分科会は、感染は拡大傾向だが重症者は少ない。医療体制に余裕があり今後は感染の拡大防止と経済活動の両立が課題と指摘。感染防止は大事だが、長期間になるほど経済活動が重視される。そこ混濁の語源を調べると「経世済民[けいせいさいみん]」とある。経には「たていと」を原義として十数種類の意味があり、その中に「おさめる、統治する」の意味がある。経世済民とは「世の中を経め民の苦しみを救う」こと、そうした政治を意味する。一般に経済活動とは「支出(需要)・生産(供給)・収入(所得)の循環」いわゆる「物と金」重視で理解されるが、「世を治め国民の苦しみを救済することが目的」という本来の意味を見失わない経済活動の展開を願いたい。
不要不急の外出を避け自坊に閉じこもって生活した数ヵ月間。境内の掃除などしながらいろいろ考える時間や趣味の茶道に没頭する時間が持てた。コロナ禍の中、裏千家千宗室家元が「各服点[かくふくだて]」を紹介した。各服点は法華信仰の篤かった裏千家13代家元円能斎[えんのうさい]が明治後期に、地方の公会堂で公表したのを始めとする。当時の衛生思想の普及に対応するために考案された点前だ。普通の濃茶席では、客同士が一碗で濃茶を飲み回すが、各服点では亭主が客1人ずつ個々の茶碗で濃茶を練って出す。つまり主茶碗は正客にのみ、連客には盆に載せた銘々の茶碗に濃茶を練って出す。衛生面重視の点前と言える。
ところで京都では6月に水無月を食べる習慣がある。水無月はういろう生地の上に邪気払いを意味する小豆を甘く煮てのせ、三角形に切った菓子のこと。室町時代、宮中では氷を食べて暑気払いする風習「夏越[なごし]の祓[はらえ]」があり、その氷に模して作られたのが三角形の水無月だ。今年も前半が過ぎ無病息災を感謝し、厄除け祈願を込めて水無月を頂いた。もちろんコロナウイルスの退散も祈った。茶道に限らず日本の伝統文化には、新しい生活様式を考えるヒントがあると思う。皆さんもぜひ探してはどうでしょうか。
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(論説委員・奥田正叡)
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