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「被災者支援のためのトラウマ対策緊急講座」

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  平成23年4月25日

会員限定
「被災者支援のためのトラウマ対策緊急講座」参加レポート
渡部公容 

講師 水島広子氏(精神科医)
日時 平成23年4月25日(月)13:30〜
会場 築地本願寺
主催 (財)全国青少年教化協議会
内容 第1部 PTSDについての講義
第2部 アティテューディナル・ヒーリング(AH)ワークショップ

(第1部 講義)
○トラウマ=心の傷と訳されるが「傷」という捉え方をしないほうがよい。
  ・傷と捉えると、後々の関わりが難しくなる。
  ・日常生活のつながりが、ある時突然断たれてしまった状態と理解する。
  ・これまで普通にあったつながりを作り直していくイメージで。
  ・対処することが出来ないほど大きな衝撃を受けた時にできる心の状態。

○トラウマとなりやすい出来事の特徴
  1、予測不能(無防備)=衝撃が大きい。
  2、命にかかわるほどの出来事=体験。
  3、自分がコントロールできなかった=無力であったと感じる。
  また身近な人に起こった場合も、目撃した場合、伝聞した場合も。
 ・今回の震災は、すべて当てはまる。

○トラウマ=自分との信頼感、世界への信頼感のつながりが切れる(断絶)ということ。
   「まあなんとかなるだろう」「人がなんとかしてくれる」という感覚があるから日常生活が可能となる。「今までも大丈夫だったから、これからも大丈夫だろう」「まあ飛行機は時々堕ちるけど自分の乗った飛行機は堕ちなかったから大丈夫だろう」‥これがあるから生きていける。震災はこの世界への信頼感が損なわれた状態。
この信頼感が損なわれると「不安」「絶望」「無力感」が前面に出てくることになる。
トラウマの特徴は「警戒」「孤独」「無力感」が3本柱だが、特に「一人で生きていかなければという孤独感」は多い。
世界への信頼感が損なわれると‥不安が前面に出て、こんな世界で生きていかれない。
自分への信頼感が損なわれると‥自分は無力だ、孤独だ。自分の経験したことは人にはわからないだろう‥。自分よりもっと被災した人がいるのだから、この程度はがまんしなければ‥。人の世話になっている。
○トラウマが持続している時の感じ方
 ・とても危険な世界の中に無力な自分が孤立無援で取り残されている、と感じる。

○よく見られるトラウマ反応(人間としての当然の自己防衛反応=正常で健康的なもの)
  1、トラウマの再体験(フラッシュバック)
   ・リアルに再体験している状態。意図してない時に勝手によみがえる(侵入的想起)。
   ・子どもの場合、地震や津波が来るママゴトをするとかも。これはやめさせることはしないほうがよい。
  2、回避、麻痺
   ・回避=できるだけ考えない。思い出したくない。
   ・麻痺(乖離)=ぼーとする。ひどい場合には記憶から落ちる。思い出せない。
  3、覚醒亢進(過覚醒)
   ・不眠。寝ることが怖い人も。電気を消すと怖い。子どもの場合はひどい寝ぼけも。
   ・年中無休で警戒する。ピリピリすることが続くので注意必要。敏感。過剰になる。
   ・集中力が下がる。怒りっぽい人も。
 (例)「お気持ちはわかります」⇒「あんたに何がわかるんだー!」
    このようなことばかけはダメ。
  4、よくみられるその他のトラウマ反応
   ・ストレスからの身体反応(頭痛、胃腸の不調、過呼吸、動悸など)
   ・抑うつ(うつが前面に出る人も)

○反応と症状の違い
 ・衝撃後の反応は「自然な反応」「人間として普通のこと」であることを、自分にも被災者にも強調すること。
 ・このような反応はほとんどの場合、自然に時間と共に減っていく。しかしゼロにはならない。
 ・これらの症状が1ヶ月以上続くとPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断される可能性がある。この場合には専門家へ。この時相手に「PTSDかもしれませんよ」というとびっくりしてしまうので、驚かないように「眠れないことをお医者さんに相談してみたら」と勧める。
 ・このPTSDへの移行は「衝撃度が強い」という要因は第3位で、「身近な人による支えの有無(ソーシャルサポート)」が、第1位の要因である。
 ・「人から支えられている」という感覚が大事になってくる。
 ・第2位は「生活上のストレス」=仕事がない。家が無い。

○子どものトラウマ
 ・基本は、子どもはみんな受けていると考えること。おとなより受けやすいが、安心できる環境を与えれば回復は早い。
 ・トラウマに見えない子どもがいることも注意しなければならない。ケロッとしていたり、がんばっている子もいる。
 ・行動の変化として現れる(落ち着いて授業、勉強ができない。けんか。いじめ。
反抗的=気づかれにくい。赤ちゃん返り。身体症状=おなかとか)。

○トラウマに関連した死別がある
 ・通常の悲哀のプロセスのみでなく「侵入的想起」などの複雑な因子もあることもわかっていなければならない。‥専門家につなげることが大切。
 ・「死を避けることができなかったのだろうか」「最後はどんな風だったのだろう」

○トラウマケアのポイント
 ・「評価を下さない」ということが重要。
 ・トラウマの受け方は、人それぞれであるということ。同じ町内であっても、同じ震災であっても、違う人生を生きてきたのであるから、同じトラウマを受けているわけではない、ということを理解すべき。
 ・トラウマからの回復は時間軸がある。‥「今はこういう時期なんだな〜」
 ・回復のプロセスは各人で異なる。
 ・回復のプロセスは他人が阻害(=邪魔)しなければ、人は回復していく(=評価を下さず、ただ必要とされることを誠実にしていくこと)。
 ・本人が自分自身で邪魔している時には少し楽にさせてあげる。たとえばいつまでも罪悪感が続く場合などでは「同じように言っていた人もありましたよ」とか。
 ・淡々とお世話する。(例)水が欲しい⇒水をあげる。これは本人を肯定すること。
 ・トラウマ体験を語らせるということは、絶対やるべきではない。(治療は別として)
(例)子どもの前にマイクを差し出して「津波怖かった?」‥
    最悪!再度外傷体験を受けることになる。
    本人が話せるような時期になって自分から話すことが大事。

○評価を下すことの問題
 ・二次被害の発生(=評価そのものによる傷)
(例)「もっと大変な人もいるのだから」「家も失った人もいる」⇒あなたはたいしたことも無いのに、なにを大騒ぎしているの?と受け取られる。
「前を向いて生きなければ」「かわいそう」
「今、泣いた方がいいよ!」‥今その人はその段階ではないかもしれない。
「ガンバレ!」‥こんなにがんばっているのに。
「亡くなった人の分までがんばって」
「いつまでも後ばかり見ていないで」
「お気持ちは、わかります」

○自分への信頼感への回復のポイント
 ・エンパワーメント=有力化(力をつけさせる)
 ・「あ〜今はこんなもんでいいんだ」と思えると自分への信頼感が取り戻せる。
 ・話したくない時には、待機していてあげるほうがよい。
 ・自分でコントロールできることを見つける。日常生活のなんでもないことでよい。
 ・どういう形の援助がいいのか尋ねることも。
 ・自分が「できている」という感覚を増すこと。子どもの場合=親も被災しており親としての十分な機能が果たせなくなっている状態にあるが、こちらが親代わりをしてしまうと、親のほうが自信を失くしてしまうので、親のサポートをするように。
  子どもへは直接的な関わり(遊びなど)もよいが、親が全然できていないことをやってしまうと、親は「自分はダメな親だ‥」と感じ、結果的に親の機能が落ちていくかもしれない。

○質問に対して
 ・PTSDの発症率は、女性のほうが2倍高い。
 ・性差、地域性もあるが、「個々人の違いが大きい」ということに注目してほしい。
 ・「地震」や「津波」の場合は、出来事性が高く、喪失感が出てトラウマが出やすいので、PTSDになりやすい。
 ・「原発事故」の場合は、見通しが立たないことから不安、抑うつが出てくる。この場合は薬で楽になることもあるので専門家へつなげる。
 ・自殺念慮=最後が「うつ」であったかどうか、それにアルコールが加われば高い比率で自殺へ移行する。自殺は「絶望感」スケールと相関が高い。これ以上がんばらなくてもいいので、下支えをしてくれる人を一緒に見つけよう。家族のためにこれをやってくれ、というようなこと。(自分のために、というのは効果がない)
 ・二次被害を受け、もう信頼を失っている人の場合に、傷ついた本人に「あなたのほうが正しい」と言える人には言ったほうがいい。不信感の強いひとには、時間をかけ、距離を持って、安全感を醸し出すように。「もうしゃべらない」という人は放っておく。相手から話してくるまで待つ。

(第2部 ワークショップ)
○AH(アティテューディナル・ヒーリング)とは
 ・心の姿勢を自ら選ぶ、ということ。
 ・傾聴を行う時の問題として「二次被害の問題」と「燃え尽きの問題」を考える。
 ・相手の問題に共鳴してしまうと、燃え尽きてしまう。かといって冷淡に聴くこともどうかと。AHは、その相手の話を聴く時の参考になる。
 ・人のためと思ってやっていると疲れてしまうので、自分が心の平和を選ぶためにやっている、自分のために‥という意識を持ったほうが、相手のためになる。そのほうが押し付けがましさがなくなる。
 ・「聴くこと」に意識を集中する。
 ・「開かれたこころで人の話を聴く」
 ・「お互いに支え合うこと」
 ・「評価を下さずに人の話を聴く」

○データベース(=自分自身の過去経験?価値観?)
   私たちは、人の話を聴いていると、何かの考え、自分の価値観、こうすればいいのに、もし自分が同じ立場だったら、などの自分の世界の記憶が出てくるが、これらを「手放そう!」ということ。考えないようにということは無理。
 ・人の話を聴く時に、自分の過去からの「データベース」を通して話を聴いている。
自分が知っていることと、相手が知っていることとはちがう。
 ・辛そうな話の時に、「あ、辛いんだ」と思ったら、そこで自分の評価が入っていると気づいてほしい。評価をしないほうが自分も、相手も楽になる。
 ・やってあげる、義務感があると疲れる。

○聴き方のコツ
 ・数秒後に、考えが浮かんでくると、それは過去のデータベースに入ったと思い、そこから出て、本人(相手)の現在に戻ること。
 ・悩み(問題)を、問題として聴かない。解決する必要もない。この人は大丈夫だろうな〜と、そこはかとない気持ちで。

(感想)
第1部の講義は、トラウマについて具体性のある講義であった。
特に「二次被害の発生」防止、つまりボランティアが起こしやすい問題点について繰り返し注意を促した。
第2部については、受講者3名が具体的に5分程度の悩みを話し、それを全員で「聴く」ということを行ったが、このコツはよく理解できなかった。終了後に疑問点もあったが、質問時間はとれなかった。
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