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(日蓮宗新聞 平成22年11月20日号 2面 論説) 記事

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生物多様性に見る法華経のこころ

 環境問題は「いのち」の問題だといえます。そして環境問題の二大テーマは地球温暖化と生物多様性でしょう。後者は余りなじみのない言葉ですが、先月、名古屋で聞かれた国連の会議がマスコミによく取り上げられ、ようやく知られるようになってきました。会議の主要な目的は人間にとって不可欠な生態系を守り、生物との共生を目指す取り組みです。生物多様性の意味を一言でいえば、全てのいのちは繋がっていることを表していると言われます。
 これは正に法華経の精神と同じです。法華経は草木や小石さえも成仏できるという、環境全体の成仏が説かれ、それは宇宙全体のいのちと釈尊のいのちは繋がっているという原理(一念三千)かあるからです。自然環境を守ることは、私たち法華経信仰者の大きな使命と考えるべきでしょう。
 内閣府のアンケート調査によりますと、90パーセント近くの人が生物多様性の意味を知らないと答えていますので、以下簡略にまとめてみようと思います。最初の生命が誕生したのは約三八億年前。以来、生き物は様々な環境で変化、進化し、多種多様な違いの生き物がいながら、食物連鎖の例のように互いが繋がり合って生きているーこれが生物多様性です。ここでいう生物とは動物、植物だけでなく昆虫や、キノコ等の菌類、微生物包含まれています。多様性には三つのレベルがあると考えられ、一つは生態系の多様性。これは森や海など生息地を意味します。二つ目は種の多様性。生き物の様々な種t類です。三つ目は遺伝子の多様性。同種類でも地域によって、異なる遺伝子を持つことを指しています。
 この生物多様性は多くの恩恵、恵みを私たちに与え続け、それは次の四分野にまとめられます。まる1人間の生活に必要な食料、燃料、繊維、薬品、水など資源の産出。まる2洪水や土壌流出などの自然災害を軽減し、生物の環境を守る。森林やサンゴ礁が代表です。まる3豊かな精神文化を育み、美しい自然から得る智恵、感動の機会を与える。全ての生き物に神が宿るなどの文化、宗教の多くは地域固有の自然と関係していると考えられます。まる4酸素の生成、水の供給など生きていくために必要な基盤の提供。
 このように数え切れない恩恵を私たちは受けているのですが、多くの生物は絶滅の恐れがあり、それは生物の一員である私たちの絶滅にも結びついています。原因は開発や動植物の乱獲、地球温暖化などで、これを防ごうと一九三ヵ国、地域代表が集まって今回開かれた会議では、生物の保全を目的とする「愛知ターゲットと、医薬品の基になる動植物の遺伝子資源の利用について定めた「名古屋議定書」が採択され、一歩前進しました。しかし日本だけでもメダカやキキョウといった、よく目にするような動植物を含め、三一五五種類が絶滅危惧種にリストアップされ、多くの野生生物が絶滅の危機に瀕しているのです。
 急速に失われる生物多様性を守るためには、一人ひとりの心がけが大切でしょう。まず大事なのは日々の暮らし、ひいては「いのち」は生き物によって支えられていることを知り、理解することです。そこから自然の恩恵に感謝し、決して物を粗末にしない生き方を考えると思います。二番目は自分にできる取り組みをすること。除草剤などで自然を汚染しない、植樹(緑化)を心掛けるなどです。そして人間だけでなく、全てのいのちは支え合っていることを、自身の力に応じて伝えていくことにあると思います。
(論説委員・山口裕光)
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