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(日蓮宗新聞 平成20年10月10日号 2面 論説) 記事

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「終末期医療と臨終正念」

 最近終末期医療のあり方が問われている。ほぼ90%以上の人が病院で死を迎える現状の中で、最後まで病気の治療や延命処置を継続することが最善のことではなく、尊厳ある死を迎え見送ることが終末期にある本人及び家族の願いであるにもかかわらず、それを実現するための体制が十分に整っていない。
 「終末期医療に関する調査等検討会報告書」(2004年厚生労働省)によれば、全国の20歳以上の男女五千人を対象に実施したアンケート調査の結果、自分自身が痛みを伴う末期状態になった場合に延命治療を希望するかという問いに対して、20.5%の人が「やめるべき」、53.5%の人が「やめた方がいい」と答えており、「続けるべき」という答えは12.7%であった。また、「やめるべき」「やめた方がいい」と答えた人の58.9%は、延命医療を中止したときに、「あらゆる苦痛を和らげる」ことに重点を置くことを望んでおり、「自然に死期を迎える」は24.5%、「医師が積極的に生命を短縮させる」が13.8%という結果であった。終末期における医療は、延命に主眼を置くのではなく、苦痛を和らげることに重点を置いてほしいという人々の願いが現れている。
 一方、医療の現場における終末期医療の現状について調査した野口海らの研究(2006年)によれば、全国の五十床以上五百床未満の1000病院へのアンケート調査結果、患者本人への病名告知率は平均45.9%(家族に対しては95.8%)であり、延命処置の希望確認は15.2%(家族に対しては86.8%)と、本人の意思確認は低率であり、また、終末期患者の精神症状の発生頻度は、抑うつ・不安が47.0%、せん妄が20.6%であったのに対して、それら精神症状への対応は、専門家ではなく主治医、看護婦によって行われており、終末期医療システム整備の必要性が指摘されている。
 仏教徒の究極の目的は、自らが仏に成ること、すべての人々を仏に導き、み仏の安らかな世界を今ここに実現することである。臨終に臨んで、死に往く本人がいかなる心構えを持つべきであるのか、見送る人はそれをどのように支えるべきであるのかという問題は、医療の問題であると同時に仏教にとってもきわめて重大な課題である。
 臨終に際して、仏になる存在として最期を迎え、見送ることが、私たちにとって最も尊厳ある死の迎え方、見送り方だと考える。そのためにどうすればよいのかを考える時に、「臨終正念」の概念が参考になる。
 臨終正念とは、死期に臨んで邪念を起こすことなく、迷いを断って悟りの知恵を得ること、臨終の時に妄念が起こらないということである。死に臨んで安らかな心で、静かに迷いを断って次の生に向かっていく、これが私たちにとって臨終の最期の瞬間において目指すべき所であり、日蓮聖人は、お題目受持こそが臨終正念の要諦であると示された。
 死に臨んで、肉体的、精神的、社会的、霊的の四種の苦痛や、断末魔の苦しみ、魔の障り、家族の悲嘆など、正念を妨げる要因をできるだけ取り除き、死と死後の不安と恐怖を解消し、安心をもたらすための活動が仏教者に求められている。
 医療の現場における、尊厳ある生、尊厳ある死への配慮が可能になるシステム作りが求められると同時に、私たち仏教者に対しても、臨終正念への教化活動が求められている。
(論説委員・柴田寛彦)
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