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(日蓮宗新聞 平成19年5月10日号 2面 論説) 記事

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「うつ病への正しい理解を」

 うつ病の罹患率は十〜二十%といわれ、頻度の高い病気である。自分や身近な人がうつ病にかかる可能性は少なくない。ところが、うつ病について一般にまだまだ誤解が多いように思う。
 「わがままな性格だから」、「もうちょっと気力を振りしぼれば何とかなる」とか、「周囲に感謝する謙虚さがあれば」、「こせこせしないで気持ちを大らかにすれば治る」というようなことが言われる。これらは、原因を性格や努力不足といった個人的なことに押し付け、精神論で解決を促すような無責任な言動である。こうした誤解は、うつ状態にある人の悩みを更に深め、治療の妨げにもなりかねない。
 失敗をしたときや心配ごとが重なったときなどに、気持ちが落ち込んで悲観的になってしまうことは誰にでもある。抑うつした気分が短期間で回復できればいいのだが、時には長引いて生活に支障が出てしまうこともある。これがうつ病である。心のカゼと表現することもある。カゼはゆっくり休養をとって適切に処置すれば、よほどのことがない限り余病を併発せずに治る。同じように、うつ病も適切に対応すれば必ず回復するものである。
 うつ病の正確な原因は不明であるが、最近では次のように考えられている。脳の中では考えたり行動したりするときに神経細胞が相互にさかんに情報をやり取りする。その時にセロトニンやノルアドレナリンといった化学物質が神経と神経との間の情報を伝達する物質として働いている。これらの化学物質の濃度の変化が、うつ状態を招くという理論である。従って、神経伝達物質の濃度を適切に調整することが、有力な治療法につながる。この理論は、実際にこの考えに基づく治療薬が極めて有効であることによって認められてきている。服薬によって不足分を補うことと、回復を促すために十分な休養をとることが治療の原則である。
 一方、認知行動療法という、自分自身の物事の見方や考え方、行動の様式を再検討することによって、悪循環に陥りやすい状況からの脱出を促す精神療法も有効である。
 とは言っても、それではなぜそのような抑うつ的な精神状態になるのかという根本的な原因はまだ明らかにされていない。そこに宗教的な深い洞察が求められることになるのであるが、その宗数的な洞察は、科学的、医学的知見を踏まえ、また心理的、社会的な配慮をも踏まえた洞察でなければならない。安易な励ましやありきたりなアドバイスは、時に逆効果になり得ることを知っておかなければならない。
 落ち込んだ人に、「がんばって」とか「気晴らしに旅行にでも行ったら」などとつい言いがちであるが、これは言ってはならない禁句。それでは、「いっそのこと死んでしまいたい」と訴えられたときにはどのように対応すればよいのか。「死にたいと言えるうちは人は死なないから大丈夫」とか、「周りの人や家族のことを考えなさい」、「そんなに悲観しないで、考えすぎだよ」といった対応は、「この人は、私の本当の苦しみを理解してくれていない」とかえって抑うつ気分を強めてしまいかねない。むしろ、「死にたいと思うほど苦しいのですね」、「そんなにつらいんですね」と、相手のつらい気持ちを暖かく受け取ってあげることが大切。
 最近は薬がずいぶん改良されてきた。医師の指示できちんと服薬し、精神的な支えを受けることができれば、回復・治癒が可能である。うつ状態にある人のつらい気持ちを理解し、専門家のアドバイスに委ねながら、優しい相談相手としてそばにそっと寄り添ってあげることが、菩薩行としてのビハーラ精神ではないだろうか。
(論説委員・柴田寛彦)
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