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日蓮宗新聞 令和4年11月20日号
コロナ禍での心の回復
精神科医師 太田喜久子

妹を供養することで心の安らぎに

 長引く新型コロナウイルス感染症。外来では感染後の倦怠感や不眠のために仕事に行けなくなるなど、後遺症に苦しむ人が増えてきました。また改善していた精神疾患が新型コロナ感染後に悪化している状況も観察されます。世界中で行われている調査によると不安状態とうつ病は25%増加しているといいます。「脳の霧」(ブレインフォグ)と呼ばれる状態は2年間も続く場合があり、新型コロナが中枢神経系に大きなダメージを与えることが分かってきました。今後、心の健康面で被害を受けている調査報告が出てくることが予想されます。
 20数年前に初めて来院した女性患者は、子ども3人を育てる主婦でした。動悸や息切れがあるため、死の不安から倒れ込んでしまうと訴え続けていました。彼女は長女で、2人の妹は教師をしていました。実家の雑務などをよくしていましたが、2人の妹と比ぺ自分は主婦で時間の都合がつきやすいと思われていると感じ、劣等感を覚えていました。
 症状は一進一退で、実家との問題があるたびにパ二ック発作の症状が出ていました。コロナ禍で受診が遠のき、その間に両親が相次いで死去し、さらには実家を継いでいた妹が家を売りに出したのです。その頃からこれまで体験したことのない気分の落ち込みが出てきたと動転した様子でした。彼女には小児がんで2歳の若さで死去した妹がいました。悲しむ両親と助け合って生きてきた家族の思い出を語れる家への喪失感が、売却した妹への怒りとして吐露され始めたのです。しばらくして亡き妹を今は自分が供養していると語り、晴れ晴れとした表情になっていました。幼くして亡くなった妹がいつもそばにいると思えるようになってからは、劣等感が心の安らぎに変化し、不安障害とうつ病から回復したのでした。
 例えは極端ですが、真実の仏法を弘めることで、過去の罪業を償却し、未来の宗教的幸せを得る「転重軽受(てんじゅうきょうじゅ)」という教えがあります。この場合ですと、過去の悲しみを受け止め、妹を供養するという彼女にとっての主体的な大切な行為が心の回復をもたらしたと考えられます。コロナ禍での心の回復方法として1つのあり方が示されている気がしています。
(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク会員)
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