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生老病死と向き合う あなたのそばに
日蓮宗新聞 平成28年10月20日号
尊厳を持って、自立して暮らしたい
今田忠彰

高齢者の心は傷つきやすい。そっと寄り添って

 私どもの会社の70歳代の非常勤職員の家に電話をした。「この電話は使われておりません」とメッセージが流れた。「きっと何かあったんだ」と悪い予感がしたので、急いで職員を遣わした。すると「昨日、振り込め詐欺にあい、100万円を渡してしまった。そこで、息子が心配して電話を切ったんだ」とのこと。驚いたが、思えば昨年は脱水症状で救急搬送された職員なので、命に別状があったわけではなかったと、ひと安心した。
 「なぜ、会社に来て相談しなかったの」と聞くと、「息子が大手の商社に勤めているので、他人に知られないように黙って取りに来た人に渡した」と言う。40歳にもなる息子のことを、親はいつまでも子どもとして心配しているのだな、と親心に感心した。
 「自分は、振り込め詐欺なんかに、絶対に引っかからない」と思っていたという。お人好しなのか、老化現象なのか、本人は恥ずかしいので黙っていたと言う。ここに高齢者心理の落とし穴がある。「自分はしっかりしている」と思っていたので、振り込め詐欺にあったこと自体が大きなショックになっている。
 息子は、1人暮らしを心配して、老人ホームヘの入居を勧めた。本人は、まだいやだと言った。そこで、用がなくても毎日会社へ顔を出すこと、どんなささいなことでも相談することを条件に、もう少し1人暮らしをすることになった。
 息子は、「今すぐ入らなくてもいいから、老人ホームがどんなところか、見に行くだけでも行こう」と言う。「ままだいい」。本人も息子も、いずれ来る限界を感じている。
 
 高齢者は、自分が老化したことを、感じてはいる。しかし、具体的に実感することは難しい。運転免許証を返すといっても、慎重にやればまだ大丈夫だろうと思っている。決して安易な気持ちでいるわけではない。ただ、ふんぎれないだけか、諦められないだけなのだ。少しでも、尊厳を持って、自立して暮らし続けたい。
 高齢者の心は傷つきやすい。できなくなったことをいちいち指摘しないでほしい。同じことを2度言っても、呆けたと馬鹿にしないでほしい。「大丈夫だよ」と、そっと寄り添ってあげてほしい。いずれ、現実を受け止めなければならない時期が来るのだから。
 (日蓮宗ビハーラ・ネットワーク代表)
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