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「トラウマ災害支援の心得」

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 レポート
  平成23年9月15日

会員限定
「被災地における子どものケアについて」相談員研修講座
「トラウマ災害支援の心得」水島広子氏講演レポート
成田東吾

基調講演
演題 「トラウマ災害支援の心得」
講師 水島広子氏(精神科医)
日時 平成23年9月15日(木)12:40〜13:40
会場 日蓮宗宗務院 5階講堂
主催 社会福祉法人 立正福祉会
全国家庭児童相談室連絡協議会
   水島広子氏

 
家庭児童相談室相談員研修講座で行われた水島広子氏の講演レポートです。


 
 
トラウマ災害支援の心得
 
 
水島広子
 
 
 
多くの方が、急性のトラウマ現象は落ち着いている
個人差が開いてくる・・・症状として残っている、回復しない、回復してしまった

トラウマ(心的外傷)とは
対処することができないほど大きな衝撃を受けたときにできる心の傷
トラウマとなりやすい出来事の特徴
 予測不能(無防備)
 命に関わるほどの出来事の体験(内容の恐ろしさ)
 自らはその前に全く無力であった(コントロール不能)
身近な人に起こった場合(目撃した、伝聞した場合)もトラウマにつながる
 
予測不能・・・無防備・・・身構えることができない・・・当に震災も
命に関わる程ではない・・・医学的にはトラウマにならない
 体験している最中に死を覚悟する程であったか・・・命に関わる
何とか出来る部分があると、体制を立て直しやすい
 自然災害、震災・・・自分では何も出来ない
 目の前で家族が津波に流されていった・・・何もできない無力感

トラウマ=自分と世界への信頼感からの断絶
日常生活を可能にする「まあ、何とかなるだろう」という感覚
 「まあ、自分は何とかできるだろう」(自分への信頼感)
 「まあ、今までも大丈夫だったのだから、これからも大丈夫だろう」
(世界への信頼感)
これが損なわれると・・・
 「これからどうなるのだろう」「自分は大丈夫なのだろうか」(不安)
 「もう絶対無理だ」「事態が改善することなどあり得ない」(絶望)
 
トラウマをどのように捉えれば、その後の支援に役立てられるか
傷・・・腫れ物・・・触って良いものかどうかわからない・・・自然治癒しかない
傷として見ると、関わり方を間違うことがある
 
「断絶」として捉える
危険の可能性は何処にでもある・・・日常生活が送れなくなる
「まあ、何とかなるだろう」・・・日常生活を何となく送っている
自分と世界に対して、そこはかとない信頼感がある

損なわれると・・・不安、絶望・・・何となく持っている信頼感が無くなった(断絶)

つながれば、元に戻る・・・衝撃で切り離されたような状態
繋げていく作業をやっていく・・・支援の仕方がわかる
どのようにすれば繋げられるか、繋げるために何ができるか

トラウマ=ブチッと断絶してしまったような状態

トラウマの特徴 警戒・孤独・無力感
世界への信頼感が損なわれると・・・
 「こんなに恐ろしいことが起こる世界で生きていくことなどできない」
自分への信頼感が損なわれると・・・
 「自分は無力だ」「自分は孤独だ」
 日常生活の喪失も、自分への信頼感を損ねる
トラウマの感じ方:
 とても危険な世界の中に、無力な自分が孤立無縁に取り残されている
 
自分への信頼感が損なわれる
・・・「こんな自分のことなんて分からないだろう」「誰も助けてくれないだろう」
日常生活・・・自分への信頼感をもたらす宝庫・・・この社会に居ていいんだ
仕事・・・自分への信頼感・・・生活の糧、社会貢献
学校が無くなった、幼稚園がなくなった・・・日常生活環境の喪失・・・信頼感を失う

世界はとっても危険な場所、何も出来ない自分がいる・・・誰も助けてくれない
傷ついているというよりは、「取り残されている」という感覚・・・シンプルな時

人から傷つけられるというのがあると、違った感じになってくる
世界への信頼感、自分への信頼感・・・他人への信頼感というのも出てくる

よく見られるトラウマ反応
(1) トラウマの再体験
意図していないときに、トラウマ体験の記憶がよみがえってくる反応
(侵入的想起)
トラウマ体験の夢(子どもの場合:より一般的な悪夢も)
トラウマ体験を思い出させるものに接したときに強い心理的苦痛や身体の反応
フラッシュバック
体験した衝撃的なシーンを、遊びの中で繰り返し再現(子どもの場合)
 
トラウマ反応・・・正常な反応・・・普通の人に起こってくる
侵入的想起・・・自分から自発的に起こる(自発的想起)と違い、突然入ってくる
自分がコントロールできないタイミングで怖い思いを何度もしなければならない

起きている間は刺激を避け続けて避けようとする・・・寝ていると無防備=夢
身体的異常・・・呼吸がハァハァ、身体がおかしくなる

フラッシュバック・・・意識全体が今当にリアルにもう一度体験しているようになる
 身体全体で体験してしまう、今此処にいるというのも分からなくなる
侵入的想起・・・頭の中に思い出されて苦しい

子どもの場合は、遊びの中で再現する
 津波に親を亡くした・・・ままごとの中で、津波に流されて死ぬということをする
 ・・・大人の場合の侵入的想起と同じと考えて欲しい
 遊びたくて遊んでいるのではない、思い出したことを遊びとして行っている
 しかったり、注意したり、不適切だという事を言ってはいけない
 より安心できるような関わりを
 一緒にその遊びをしながら、違う方向に誘導することも出来る
 ・・・アプローチの工夫を

Q.
テレビで結構やっていたが、子どもたちが砂場でミニカーに砂をかぶせるというのも?
A.
そのものです

アートセラピー・・・子どもたちに絵を書かせて心を癒そう
自分でも自覚していない感情が怖い絵を描いてしまい、その怖い絵を見て怖がることも
絵を書かせることで、二次被害が生じていることもある

Q.
箱庭療法というのは?
A.
はい、とはいえない。(専門は対人関係療法)
本当に効果があるかどうかをやってみて、効果がある療法を行う
データがないものに対しては、良いとも悪いとも申し上げられない

本人が苦しい・・・間違うと更に苦しくなる・・・効果があることをするのが良い

よく見られるトラウマ反応
(2) 回避・麻痺
衝撃的な出来事を思い出させるものを避ける
ボーッとなる
出来事の重要な側面を思い出せない
他の人から疎遠になっている感じがする
それまで楽しめていたことを楽しいと思えなくなり生活が全般に引きこもり気味になる
 
思い出す場所を避ける(回避)
誰かと話すと思い出すのでは・・・誰とも話せなくなる・・・引きこもる

二次被害・・・タダの震災でなくて人から傷つけられたり・・・人と話すことを避ける
 社会で生きることが難しくなる・・・適切な支援を受けることも難しい

ボーッとなる(麻痺)・・・意識をちょっと外す・・・鈍感な状態にさせておく
 意識を完全に離してしまう・・・多重人格

一時期の記憶がない・・・思い出せない(麻痺)・・・自分を守る為の反応

麻痺してボーッとしている・・・他人を見て違う世界のように感じる

こんなことが起こったらどうしよう、誰かにあったらどうしよう(回避)
楽しいと思えない(麻痺)
・・・日常生活が出来なくなる
もう一度楽しい・・・トラウマからの立ち直り

よく見られるトラウマ反応
(3) 過覚醒(覚醒亢進)
不眠(子どもの場合、ひどい寝ぼけなども)
集中困難
怒りっぽくなる、イライラする
ちょっとしたことで過剰に驚いたりする
 
眠ると恐ろしいことが起こると対処できない・・・寝ない
本当は眠りたい(身体の為にも眠った方がよいと思っている)
睡眠が浅くなる、睡眠のリズムがおかしくなる

夢・・・眠る時間はとても怖い時間・・・寝たいのに眠れない・・・寝込まないように
寝る=怖いこと
「寝た方が良いよ」=怖いことを強いる
「寝ることは怖い?」=分かってくれる

集中困難・・・学級崩壊が感嘆に起こる

怒りっぽくなる・・・知らないとトラブルになる
トラウマ=傷と捉えると、励ましてあげなければ・・・トラブルの元に
大したことをしていないのに怒られた・・・取り返しのつかないことをしてしまった
支援している場合・・・自分を責めるのではなく、ピリピリしているんだなと

とても驚きやすい状態・・・「何々過ぎ」と思ってはいけない
身体は怖い思いをしたということだけで反応する・・・自分を守る反応

Q.
失語症(声が出なくなる)
A.
失声・・・喋ろうとしても声が出ない・・・麻痺

よく見られるトラウマ反応
(その他)
身体の反応(頭痛、胃腸の不調、過呼吸、動悸など)
抑うつ
 
ピリピリしているとき・・・お腹が痛くなる・・・身体の症状

絶望が前面に出る・・・抑うつ・・・抑うつから身体の反応になる場合もある

身体にも出てくる・・・消化吸収能力が衰える

「反応」と「症状」の違い
衝撃後の反応は「自然な反応」であることを強調する
ほとんどの場合、それらの強度や頻度は時間経過と共に自然に減少していく(必ずしも「減る」わけではない)
これらの反応が著しいために日常生活に支障を来すような状態が1ヶ月以上続くとPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断される可能性もある
 →専門家への相談へ
PTSDへの移行の要因:
 身近な人による支えの有無、生活上のストレス、トラウマの深刻さ、
 ・・・・・・
 
3ヶ月で半減、半年でさらに半減
ほとんど落ち着いて、ちょっと出ることがあるかな・・・自然な反応

「消える」わけではない・・・思い出すことはある・・・「減る」
減ってきている人・・・今の方が頻度強度が減っているのが確認できる

PTSD・・・トラウマが減らないで、ずっと続いている
専門家への相談・・・繋げ方が難しい
 「PTSDだから、精神科に行った方がよい」
 年配者・・・其処までおかしくなったか・・・知らない言葉を出す
 「不用意な言葉を突然話す」・・・二次災害
 「なかなか眠れないようですから、専門家の先生に眠れるようにしてもらえば」
予定居ていた話しだけで会話をする・・・びっくりさせるようなことを言わない

どういう人がPTSDになるのか
体験の内容が悲惨であればあるほど・・・第3位
 どんなにひどい体験であっても、支えがあればそれほどでもない
 ☆自分の生活圏で支えてくれる人を見つけられることが出来れば
いつ回復するかわからない・・・第2位
 ☆今支えてくれる人、話せる人が居る、相談できる人が居る
身近な人による支えがないひと・・・第1位

日常生活に繋いでいく・・・元のままの形は無理・・・何とか生きて行けそうだ☆
身近な人の存在が大きい、相談出来る人・・・繋がり☆(キーワード)

子どものトラウマ
子どもは大人よりもトラウマを受けやすいが、安心できる環境を与えれば回復も早い
・「トラウマ」に見えない子どもも多い(けろりとしている)
行動の変化
 落ち着いて授業を受けられなくなる
 勉強に集中できなくなる
 すぐに喧嘩をするようになる
 いじめをするようになる
 反抗的になる
 赤ちゃん返り
身体症状
 
子どもはトラウマ受けやすい・・・子どもの病気は一般にそう
世間への信頼感、自分への信頼感に確たるものがない
見えないけれども、行動に出てくる・・・ピリピリ反応(上4つ)
反抗的になる・・・世の中のことを言う人に対して反抗的
問題行動を起こす・・・二つを区別
 これ以上傷ついて欲しくないから、危ないから止めて欲しい
 こんな行動をするということは、何か苦しいことがあるのでしょう・・・聴く
赤ちゃん返り・・・一歩下がって安全を確認している
言葉で表すことができないので、身体に出ることが多い
お年寄り・・・「ストレス」という言葉を知らないため、身体症状として出る

トラウマに関連した死別がある場合
通常の悲哀のプロセスのみではなく
侵入的想起
「死を避けることはできなかったのだろうか」
 「最期はどんなふうだったのだろうか」
 というところへのとらわれの持続(外傷性悲嘆)
 
亡くなったという点だけに捕らわれてしまう
捕らわれが何年も続いてしまう・・・専門的介入が必要・・・専門家へ繋げる

トラウマへのケアのポイント=評価を下さない
トラウマの受け方は各人で異なる
 (同じ震災を体験したからと言って、同じトラウマを受けているわけではない)
トラウマからの回復には、「プロセス」があり、感じ方はその時々で異なる
回復のプロセスは各人で異なる
回復のプロセスを阻害しなければ、人は回復していく
 (評価を下さず、ただ必要とされることを誠実にしていく)
 トラウマ体験を語らせることの問題
 
語らせることの問題・・・本人がプロセスの中で語ることは良いが

評価を下すことの問題
二次被害の発生(評価そのものによる傷)
 「他人への信頼感」の喪失(対人トラウマ)
回復のプロセスの妨害(自己への信頼感を更に損ねる、孤立感をさらに強める)

「かわいそう」「がんばれ」「もっとひどい体験をした人がいる」
「亡くなった人の分もがんばって」「いつまでも後ろばかり向いていないで」
「お気持ちはわかります」「あなたなら大丈夫」
「どんなことでも乗り越えられる」 「これは何かを学ぶための機会」
 
本日お話しした内容は・・・
正しく知る心的外傷・PTSD 〜正しい理解でつながりを取り戻す
(技術評論社)
対人トラウマについては
 対人関係療法でなおす トラウマ・PTSD(創元社)
治療者・支援者の姿勢
 トラウマの現実に向き合う −ジャッジ面とを手放すということ
(岩崎学術出版社)
 恐れを手放す アティテゥーディナル・ヒーリング入門ワークショップ
(星和書店)
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