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日蓮宗新聞 平成18年7月20日号 
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もっと身近に ビハーラ
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林 妙和師 
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相手を思いやり 
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まずは信頼関係を 
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嫁・姑は永遠の課題!? 
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ゆるす・わすれる 
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 施設では、お見舞や面会に訪れる多くの方との出会いがあります。ご家族にはそれぞれ長い歴史があり、それによって織りなされ 
る光景からさまざまな人間模様がうかがわれます。 
 とりわけ、嫁・姑は永遠の課題です。事例を紹介します。 
  面会に訪れた家族とともに
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志のさん(86) 
 裕福な家庭に育った志のさんは、一人息子夫婦との同居。週一回ご夫婦で面会に来られますが、お嫁さんはいつも志のさんと目を合わせません。退所の機会は何度かあり、夫婦と話し合いましたが、お嫁さんは「帰ってくるなら離婚します」の繰り返し。 
 志のさんは「帰りたい」とは口に出しませんでしたが、うっぷんを職員に。「施設に一千万も払ってやったのにサービスが悪い」など、思うようにならないと叫んだり暴言を吐きます。その言葉の裏には、寂しさがにじみ出ていました。 
 やがて余病を併発。命が長くないことを感じたのか、「家に帰りたい」と訴えるようになりました。「帰さないなら恨んでここで死んでやる」とまで。そして、ついに拒食。 
 お嫁さんは面接を重ねるうち、やっと心の内を話してくれました。過去に「嫁の代わりはいくらでもある」といびられていたのです。はじめは「思い出すと憎しみが募る」「許せない」「餓死してもいいです」と譲らなかったお嫁さんでしたが、仏教の話をさせていただいた頃から少しずつ変化がみられ、「一日だけの外泊なら」と受け入れてくれました。 
 その日は私もご自宅まで一緒に送って行きました。志のさんは帰宅した途端穏やかになり、水のみを差し出したお嫁さんに「ありがとう」と一言。「初めてです」とお嫁さんは涙を流していました。そして自宅で看取りたいと、医師・訪問看護師・ヘルパーの手配を頼まれました。 
 一週間後、お嫁さんに死に水をとってもらい、志のさんは安らかに旅立たれました。 
すみさん(75) 
 最近になって施設に毎日訪れるようになりました。 
 「そりゃあ、義母とはいろいろありましたが、もう忘れたよ。忘れなきゃいかんよね。義母は認知症もありますが、喜んでくれているのが分かるし、三階に行くまでのエレベーターの中で今日は何を話そうか、考えながら行くんですよ」。 
支援のポイント 
 家族の問題は、第三者が突き放しても入りすぎても逆効果。面会の家族や高齢者とは、まずは挨拶を交わし、いたわりの言葉をかけるなど、何げない会話が心が通い合うコミュニケーションのきっかけを作ります。 
  耳を傾け思いやる心を
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 慈悲心を持って相手を観ると、表情や言葉から心のうちが垣間見えることも。心を開いてありのままの胸中を話して頂くには、まず信頼関係を作ることです。そのためには、相手を理解(共感)することから始まります。 
 「自分一人で悩んでいると思っていた時はつらかった」「親を預けることが悪ではないと解ってもらえた」「施設を利用して距離を置いたら、やさしく話せるようになった」。 
 人から受けた忘れられない言動など、想いを打ち明けられたら批評せずに耳を傾けることが心のケアの要です。 
 ″縁あって嫁となり姑となった。過去世からの深い因縁。嫁がいなきゃかわいい孫にめぐり合えない。姑がいなきゃ夫ともめぐり合えない″。そう心ではわかっていても、なかなか受け入れられないことかも知れません。でも、それが人関なのです。 
 自分のことは棚に上げて感情のおもむくままに不用意に出た言葉 
は、つい邪険になり相手を傷つけます。また、相手を思いやる心から出た言葉は相手を癒したり勇気づけ、喜んでいただく功徳の種でもあるのです。 
 わざわいは口より出でて身をやぶる。さいわいは心より出でてわれをかざる。 
 『重須殿女房御返事』 
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(名古屋市道心寺修徒・医療法人大雄会顧問) 
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