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日蓮宗新聞 平成19年12月20日号
もっと身近に ビハーラ
藤塚 義誠
38 
 生と死まる3

心豊かに、愛する家族への思いやり
「死への準備」早すぎることはない
基底はお題目を唱えることに尽きる

 「死を語る時代」であるといわれ、書店には死に関する出版物が数多く陳列してあります。しかし、私たちは「死」という言葉に過剰反応を示しがちです。死を□にすることはタブー(禁忌)、縁起でもないとされてきたからです。死についての話など避けて通りたい。それはおぞましいこと、不愉快なことだからです。
 近年、大地震に備え広域市町村が連携して、大がかりな防災訓練が実施されています。いつ発生するかわからない地震。同様にいつかわからないまでも確実に訪れる自分の死、家族の死。無防備でよいはずはありません。
 中年の域に達した夫婦であれば、お互いの最期について、その願いを語り合っておきたいものです。「俺がもしもの時はなぁ」という話題になったとき、「あなた、そんな話やめて」とさえぎらないことです。「冗談でも聞いとくわ」と受けとめてあげましょう。仮に夫婦のどちらかが入院した場合、べッドサイドで、もしもの時にはどうしたらいい? などと声がけができるでしょうか。死の宣告をするに等しいではありませんか。お互いが健康なときにこそ交わすことができる会話です。夫はもしものとき誰に知らせてほしいと思っていますか。妻の一番気に入っている着物はどれでしょう。ご存じですか。
 手広く商いをしていた当主が急逝、遺された家族は、後のことについて何ひとつ聞かされていませんでした。そのうえ重要書類のありかがわからず、事後の対策や処理に苦慮して、悲しみを一層複雑にしたと聞いたことがあります。
 Aさんのお宅を訪ねたときです。「これは葬儀用の写真だ」と、押し入れから取り出した風呂敷包みを開けてくれました。温厚そのものの白髪の老紳士、すでに額に納めてありました。「俺のお気に入り、ちょっとしたイケメンだろう。あとはリボンを付けるだけ」と笑ってみせます。本物より男前だと応じながら、その用意周到ぶりに敬服したものです。
 葬儀のあとには野辺送りがあります。葬列の役付は喪家の家と家、人と人との関係を後代に留める資料にもなります。その役付のメモを遺したお爺さまがいました。息子は、親父はここまで仕切って逝ったかと、驚きを隠せません。それでも親父が決めた序列、申し開きができると話すのです。背景に複雑な姻戚関係があり、□やかましい地域のこと、お爺さまの心配りが感じられました。
 「生前に墓を建てたいが、お迎えが早く来る、やめときなと言われたが…」と寺に来た方がいました。墓を建てなければ死なないで済むなら別。生前に建てる墓を「寿陵」といい、事が成就すれば心も落ち善き、長生きできるでしょうと応えました。
 民俗学によれば、墓は命の果てたところをいう果処(はてか)、葬ったところの葬処(はふりか)に由来します。自分の命の落ち着き先を見届け、安心したいと希望する人がいます。一方、墓のことは次の世代にゆだねたいと考える人もいます。それぞれの人生観で答えは一つとは限りません。
 遺産相続については、遺言書によりその意志を明確にしておきたいもの。とかく遺言は先送りされがちですが、認知症が生じないうちに実行しておきましょう。家庭裁判所の調停を担当しますが、血を分けた者の確執はやりきれません。この辺で譲歩して、心おきなく墓参ができるようにしましょうと、収拾を試みることかあります。
 日本に死生学を確立したアルフォンス・デーケン氏(上智大学名誉教授・哲学)は、「死の前になすべき六つの事柄」をあげて、
@少しずつ手放す A許すこと、和解することを身につける B感謝の気持ちを伝える C意識がはっきりしているうちに「さようなら」をいう D遺言を書く E自分なりの葬儀方法を考え、周囲に伝えておく、を提案しています。
 日蓮聖人の「先ず臨終のことを習う」の一環でありましょう。
 「死への準備」に早すぎることはありません。それは心豊かな生のためであり、また愛する家族への思いやりです。その基底をなすものは、お題目を唱え、唱えることに尽きるのです。
 (日蓮宗ビハーラネットワーク世話人、伊那谷生と死を考える会代表、
長野県大法寺住職)
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