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日蓮宗新聞 平成19年3月20日号
もっと身近に ビハーラ
藤塚 義誠
29 
老いと若きと

お爺さまに教わり飾り付け 新盆の回向で
次世代へ継承されていく暮らしの文化

 家庭内の老いと若きの交流が希薄になっていないでしょうか。就労世代は多忙で、早朝出勤と遅い帰宅という時間的ズレ、価値観や関心の相違があり、共通の話題も少ないように感じます。互いの居室にあって干渉しない生活形態で、時に何日も会話がないということを聞きます。老若のふれあいが欠けるとお年寄りの心身の変化に気づきません。認知症のサインも見落としかねません。認知症の病状は徐々に進み、早期発見で進行を遅らせたり、改善することができます。また世代間の交流は心の安定に欠かせません。
 ある農家のお婆さんはベッドの暮らし。玄関脇の小部屋が居室です。家族は農作業に出るとき財布をあずけ、お婆さんは集金人を招き入れ、用事を足しながら地域の情報を得ています。家族はテレビを見るお婆さんから天気予報を聞き、農事の段取りを考えます。息子は「ラジオを持って出て、わかっている時もお婆ぁに聞いている」とさりげなく言います。ほっとする話です。
 保育園の祖父母参観に出講した折のこと。「先生、今日からお彼岸だって」「今夜はお月見だよ」などと声をかけてくる子は三世代同居の家庭。園児が土手に咲く小さな花を摘んで家に帰ると、ママはすぐ枯れるからと屑簸にポイッ。祖母は乳酸飲料の小さな空瓶に花を挿すゆとりがあるとは、園長先生の話でした。孫とのふれあいは祖父母の喜びであり、生き甲斐です。幼き者の人間形成によき影響を及ぼすことは間違いないでしょう。孫とのふれあいは、ママ(嫁)との良き関係を心掛け、節度をわきまえる必要があります。
 私事になりますが、亡母が九十を過ぎた頃の話です。繰り返し同じことを話すようになりました。それを告げると、昔、中国に母ひとり、子ひとりの家があり、終日水の音が響いていた。年老いた母が、しきりに何の音だと聞くようになった。幾度聞かれても「あれは谷川の音だよ」とやさしく答えていた孝行息子の話を耳にしたことがあるというのです。すぐには返す言葉がありませんでした。
 母はやがて介護の日々に移行しました。朝は行先を告げ、寺に戻って母の部屋を覗くと「どこへ行ってきたの」と聞きます。ある日、今朝言ったことを忘れたのか、それとも承知して聞くのかと尋ねると「両方あるよ」の返事に苦笑いしたものです。家族(息子)と話したいという「心の渇き」を知りました。暑さ寒さがしのげて、腹さえくちければ事足りるものではありません。
 新盆の回向に伺った家のことです。「お爺さまに教えてもらったように飾りました。聞違っていないでしょうか」という挨拶に接し、老いから若き(次世代)へ継承されていく暮らしの文化、その形と心を思いました。夏座敷に家族のお題目が響き、盆棚の遺影はあるべき位置から子孫を見守るように、温かい眼差しをそそいでいました。
 若い世代は祖父母や父母たちに家の歴史、戦中・戦後を生き披いたエピソードを尋ねてください。老いた世代は生きてきた証を、お題目と出会えた悦びを語り継ぐ責務があります。若きは聞き流すのではなく、心に留めるゆとりをもってほしいと思います。語り継ぎ、受け継がれて、老いた者の心は喜びに満たされ、安らぎに包まれることでしょう。
 日蓮聖人は「有智[うち]の高徳をおそれ、老いたるを敬い、幼きを愛するは内外典[ないげてん]の法なり」(新池御書)とお示しです。仏教の経典を内典といい、これに対し仏教以外の教えを外典といいます。老いを敬う、幼きを愛することは仏法に限りません。私たちにとり、老いを尊敬し幼き者へそそぐ愛情の中にお題目の相続があります。お題目は人生にゆるきない安心をもたらすものと確信します。
 次回より介護の周辺を考えてみます。
 (日蓮宗ビハーラネットワーク世話人、伊那谷生と死を考える会代表、
長野県大法寺住職)
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