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生老病死と向き合う あなたのそばに
日蓮宗新聞 令和2年12月20日号
多機能型精神科診療所が目指す「世界」
太田 喜久子 医師

どんな場合であってもケアできる社会に 

 新型コロナ禍の中、感染への不安によるコロナ鬱にはじまり、自粛という外への関係性の遮断からくる問題が夫婦間や子どもへも波及することで起きている鬱、雇用待機から解雇となり経済困窮生活からくる鬱状態の人たちが増えている。
 第3波の到来にコロナによる経済面への政府の対策が次々とうち出されている時期に、私は精神科での往診、訪問診療、訪問看護を続けている。国が掲げた入院中心から地域生活へという精神科病院長期入院者への取り組みは10数年経つが未だ評価は低く精神科病床は減少していない。
 このような問題を背景に、6年前に日本で精神科地域ケアに取り組む精神科医らが多機能型精神科診療所研究会を立ちあげた。診察室で受診できる患者を診る受け身的な診療形態では引きこもっている患者、病状が重くて通院を中断している患者、長く入院していて地域へ帰ってくることができない患者らにはこれまで支援が届かなかったからだ。本人の人権や自発性を損なわないように配慮しつつ、精神科診療所の持てる機能を十分活用していくことがこのような伏況を打破すると期待される。
 多機能とは必要に応じて外来の機能を医療から福祉も取り入れて地域の実情に合わせ活動を広げた結果である。100ヵ所以上の診療所が集まり多機能型精神科診療所の活動報告が毎年され、高齢者への地域包括ケアとは異なる包括的精神科地域ケアを地域に広げる運動を展開している。
 多機能型精神科診療所の核はデイケアであるが、ここから必要に応じて機能を広げていく中でも、アウトリーチ(外に出て患者と会う)はとても重要な機能である。1人診療ではできなかった往診が代務医師に来てもらうことで、ようやくこの1年実現できたのだ。
 患者の家の中に入り解ったことの1つに、仏壇を閉じている家が多かった。精神疾患を長く患い、親の代からお参りしていただいたお寺からお坊さんが来なくなったと言う。お布施の用意をする家人が亡くなり仏壇にお経をあげる日常がなくなっていた。訪問時、今は閉じられて開けられることがない仏壇が目につけば手を合わせてから患者さんとお話をするようになっていた。
 『法華経』の神力品[じんりきほん]には、10種の神力をもってしてもはかりきれない功徳が『法華経』にはあることや、受持[じゅじ]・読[どく]・誦[じゅ]・解説[げせつ]・書写[しょしゃ]の修行を実践する場所はすべて聖地であると説かれている。
 今、この難儀、困難な世界をどう渡ってゆくのかと思う時に、神力品は私たち1人ひとりがすべきことを教えてくれるように思える。それは、どんな場合であってもケアを受けられる社会(聖地)を作ること。そうすれば、包括的精神科ケアを受ける精神病患者の行く先に、安全と安心の生活が待っているはすだ。
(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク会員)
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